ヨルダン南部の内陸乾燥域に居住していた現生人類が、55km離れた紅海の貝殻を象徴品として用いていたことを、名古屋大学などのグループが新たに発見した。
現在の人類の祖先である現生人類は、絶滅した古代型人類(ネアンデルタール人など)と約4万年前まで同時代に存在したことがわかっている。現生人類のみが増加して現在の私たちに至り、古代型人類が絶滅した理由は何だったのだろうか。
本研究者らは、現生人類とネアンデルタール人の両方の遺跡が残るレヴァント地方(地中海東岸の一帯)で現地調査を行い、現生人類とネアンデルタール人の行動の違いを明らかにすることを試みた。調査地域はヨルダン国南部の内陸乾燥地帯で、海岸から遠く離れているが、ワディ・アガル遺跡から貝殻を発見し、その年代は現生人類の居住地だったことを突き止めた。
見つかった貝殻はツムガタソデとムカシタモト類の2点で、いずれも紅海産。数が少ない上に小型で、しかも55km離れた紅海から持ち込まれているため、食用とは考えにくいという。何らかの意味を有する象徴品が50kmを超えて持ち運ばれた記録は、同地域のネアンデルタール人の時代の遺跡からは見つかっていない。
ワディ・アガル遺跡に居住していた現生人類が紅海との間を移動して貝殻を持ち込んだのか、あるいは紅海の近くに居住する別の集団から受け取ったのかは不明だが、現生人類は近郊のみで生活していたネアンデルタール人と異なり、居住地から遠く離れた海岸の資源を得る手段を持っていたことがわかった。食料不足などのリスクがしばしば生じる内陸乾燥域において、海岸域とのつながりは有効な対応策だ。
本成果は、ほぼ同じ条件下で絶滅人類と現生人類がとった行動の違いを示した貴重な例であり、現生人類の行動的特徴の解明に貢献することが期待される。