筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者の約半数で、「田舎(いなか)」や「昨日(きのう)」など漢字二文字以上の熟字訓(語全体に読みがあてられており、語を構成する各漢字の一般的な読みに対応しない熟語)の音読が困難となることを、名古屋大学と藤田医科大学などの研究グループが明らかにした。
ALSは運動麻痺や筋萎縮などを引き起こす神経変性疾患だが、近年、運動傷害だけでなく言語等の高次脳機能にも障害が出る可能性があることが報告されている。
熟語の読みを思い浮かべる際、意味が助けとなることがあるため、意味記憶に障害があると、熟字訓の音読は障害されやすくなる。そこで本研究では、ALSにおける言語症状を、熟字訓の音読と意味記憶の障害という視点で検討するとともに、MRI検査を用いて症状と関連する脳内変化を明らかにすることを試みた。
ALSの患者71名と健常者68名に対して熟字訓音読検査を含む高次脳機能検査を行うと、ALSグループは健常者グループに比べて熟字訓音読検査の成績が顕著に低かった。そこで、安静時脳機能MRIを用いてALSの熟字訓音読障害に関連する脳内のネットワーク変化を調べたところ、熟字訓音読障害を有するALS患者の脳では、熟字訓音読障害のないALS患者や健常者と比較して、物や形の認知、物事の意味の記憶、発話等に関わる領域を結ぶ脳内神経ネットワークが減弱していることがわかったという。
本研究により、ALSにおいて熟字訓音読障害が出現し意味記憶が障害されうること、さらに熟語の音読障害を引き起こす脳のネットワーク異常が初めて解明された。本成果は、神経症状が脳内のネットワークの変化という形で理解できることを示した重要な例であり、神経症状の新たな病態理解をもたらすものと考えられている。
論文情報:【EBioMedicine】Semantic deficits in ALS related to right lingual/fusiform gyrus network involvement