「その行動を引き起こしたのは自分だ」という感覚と判断を運動主体感と呼び、運動主体感は2つの階層レベルで構成されると考えられている。
第1のレベル(コンパレータモデル)は、感覚運動機能に基づき、自分の運動とその結果が時間的に一致すると運動主体感を感じる。第2のレベルでは、期待、信念、文脈などの認知的手がかりに基づいて運動主体感が形成される。
とりわけ第1レベルに関しては、運動と結果の間の時間誤差が運動主体感を減少させることがわかっており、どのくらいの時間誤差まで運動主体感を持てるかという時間窓が存在する。今回、運動主体感の時間窓が子どもと大人では異なるのか否か、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターのチームが調査した。
実験には、6~12歳の学童期児童128名と21~23歳の若年成人30名が参加した。参加者がボタンを押すと画面上の■がジャンプするプログラムにおいて、ボタン押しと■ジャンプの間に様々な時間的遅延を挿入しながら「自分が■をジャンプさせた感じがするかどうか」を回答してもらうことで、運動主体感の時間窓を定量化した。
その結果、学童期児童も若年成人も時間誤差が大きいほど運動主体感が減少したが、学童期児童の運動主体感の時間窓は若年成人よりも有意に短いことがわかった。子どもの方が主体と環境との繋がりが固定的で、適応性・柔軟性が低いことを示唆している可能性がある。
さらに手先の器用さテストを実施したところ、学童期児童のみ運動主体感の時間窓と手先の器用さとの間に相関が認められた。このことは、運動主体感の2つの階層レベルのうち第1レベルが子どもの運動主体感の形成に比較的大きな貢献をしていることを示唆している。発達性協調運動障害をもつ子どもは、コンパレータモデルに基づく運動学習が困難とされていることから、運動主体感にも何らかの問題が発生している可能性を示唆する結果ともいえる。