慶應義塾大学、近畿大学、東京大学、山陽小野田市立山口東京理科大学の研究グループは、深層学習を用いることで、マウス受精卵の3次元蛍光顕微鏡画像から正確に細胞核を同定するアルゴリズムの開発に成功した。
不妊症への治療法のひとつである体外受精(IVF)は有効性が低く、国内での生殖補助医療による妊娠成功率は12.6%に留まる。従来のIVF治療におけるヒト胚の評価は、熟練した胚培養士の形態学的分析に基づいた手作業によるもので、評価間にばらつきがあった。一方、顕微鏡技術やイメージング技術の向上に伴い、発生過程の時系列3次元蛍光顕微鏡画像の取得が可能となってきているが、画像処理精度が低く、発生過程における正確な定量的指標の獲得はいまだ困難とされる。
研究では、深層学習アルゴリズムの「畳み込みニューラルネットワーク」を用いたセグメンテーションアルゴリズム(QCANet)を提案し、マウス胚のように50以上の細胞が密集した状態でも正確に細胞核を同定し、マウス発生過程における定量的指標を獲得することを目指した。その結果、マウス・線虫・ショウジョウバエの3つの生物種において、世界最高精度で細胞核を自動的に評価することに成功。一見同じように発生している受精卵でも一つ一つの分裂の様子に「個性」があることが分かった。
開発したアルゴリズムは幅広い発生段階(数百から数千個の細胞)に対応した核同定に成功しており、発生生物学の基盤となる非常に有用なツールとなる可能性がある。また、今回、モデル生物を対象に各胚に蛍光物質を導入し細胞核を染色していたが、ヒト胚への応用に備え、今後は非染色画像から細胞同定を行うアルゴリズムの開発を進めるとしている。