九州大学と東京大学の研究グループは、アトピー性皮膚炎の主要な痒み惹起物質であるIL-31の産生を選択的に抑制する低分子化合物の開発に成功した。
本研究グループは、これまでの研究で、ヘルパーT細胞が産生するIL-31がアトピー性皮膚炎の痒み感覚を脳に伝える重要な物質であること、そして、IL-31の産生には転写因子EPAS1が関与していることを明らかにしてきた。EPAS1-IL-31経路は、IL-31の産生を抑制して痒みを抑えるための有効な創薬標的と考えられることから、今回、東京大学創薬機構から提供された9,600個の化合物を対象にこの経路を標的としたスクリーニングを行った。
その結果、IPHBAと命名した化合物が、ヘルパーT細胞によるIL-31の産生を阻害し、マウスの引っ掻き行動を抑制することを発見した。一方、IPHBAは他の遺伝子発現には影響せず、IL-31選択的な抑制効果をもつことがわかった。
さらに、同様の効果は、マウスモデルだけでなくアトピー性皮膚炎患者さん由来のヘルパーT細胞でも認められた。アトピー性皮膚炎患者さんのヘルパーT細胞は、アトピー性皮膚炎を発症していない人に比べて大量のIL-31を産生していたが、IPHBAの添加によってその産生が抑制されたという。一方、免疫応答全般に重要なIL-2の産生には影響しないことが確かめられ、免疫抑制作用の少ない治療薬シーズとして有望であるとわかった。
そこで、IPHBAの構造をベースとしてさらに約200の類縁化合物を合成し、構造活性相関を検討した結果、IPHBAよりも強くIL-31の遺伝子発現を抑えることのできる化合物の開発に成功した。
本成果は、アトピー性皮膚炎の痒みを根元から絶つ新たな治療の実現につながることが期待される。