東京理科大学の谷脇三千輝氏(2024年度修士課程修了)、小嗣真人教授らの研究グループは、次世代の説明可能AI「拡張型自由エネルギーモデル」を用い、実際の磁性材料のエネルギー損失の原因を明らかにした。
電気自動車のモーターでは、磁性材料が発生する「エネルギー損失(鉄損)」が大きな効率低下の原因だ。磁化方向の反転過程で損失が生じるが、詳細な原因は未解明で技術開発の障壁であった。
研究グループは、数学のトポロジー(位相幾何学)と熱力学の自由エネルギーの概念を組み合わせ、構造-機能-因果をホワイトボックス的に接続できる次世代の説明可能AI「拡張型自由エネルギーモデル」を用いることにした。まず、モーターの鉄心に用いる無方向性電磁鋼板(NOES)の磁区構造を高分解能顕微鏡で観察し、800枚の画像を取得。画像を位相幾何学の新概念により特徴を定量化し、「主成分分析」というホワイトボックス型の機械学習の手法で特徴を抽出、解釈可能な形にした。
これにより、物質内の不純物などで磁壁(異方向に磁化した磁区間にできる境界層)が動かなくなる「ピン止め現象」が、磁区構造に及ぼす影響を解析。その結果、促進因子と抵抗因子としてのピン止めの役割を区別し、可視化することに成功した。反転過程は一般的な粒界でのピン止めに加え、粒内の細分化された磁区にも支配されているという新たな知見を得た。
今回、巨視的なエネルギー損失の要因を微視的な磁区構造までさかのぼって解析できた。特に、一見同じように見える磁壁に実は異なる役割があり、それらを区別して可視化できたことは、多様な機能性材料への応用にもつながる大きな成果だとしている。