広島大学を中心とする研究チームは、ほとんどの日本人が子どもの頃に感染するエプスタイン・バーウイルス(EBV)により、がんに対する免疫効果が高まることを発見した。
EBVは一部の悪性リンパ腫や胃がん、上咽頭がんの発生と関連が報告されているウイルスだが、免疫機能が正常であれば、ほとんどの場合、生涯にわたり体内の「B細胞」という免疫細胞に潜伏感染したままがんを惹起させることはない。これは、EBVへの感染により免疫監視が活性化され、キラーT細胞などを中心とする免疫系がEBV感染B細胞の増殖を抑制するためである。
それだけでなく、EBV感染をきっかけにより広範に免疫系が活性化され、EBVとは無関係のがん(例えば白血病や大腸がん)の発症をも抑制するという「ウイルス誘導性交差防御」という仮説が提唱されている。
今回、本研究グループはこの仮説を検証するため、EBVがコードするLMP1およびLMP2Aの2つのタンパク質の役割に着目した。これらのタンパク質は、T細胞を強力に活性化し、がん免疫を発生することで知られる。
EBV潜伏感染状態を再現したLMP1/2A発現マウスを作製して観察した結果、このマウスではB細胞が免疫系に排除されたほか、免疫監視に関与するT細胞が有意に増加することを見出した。さらに、LMP1/2A発現マウスはEBVとは無関係な放射線誘発性白血病の発症率が低下し、生存期間が延長した。遺伝的な大腸がんマウスモデルでも、LMP1/2A発現マウスは腫瘍数減少と生存期間延長を認めた。この結果から、LMP1/2Aの発現が幅広いがんに対する生体防御に寄与していることが示唆された。
加えて、EBVが誘導したキラーT細胞は、免疫逃避戦略と考えられているMHCクラスI(キラーT細胞が識別する分子)の発現が低下したがん細胞も効率的に認識・排除することが明らかとなった。この作用メカニズムとして、EBVに活性化されたT細胞ではNKG2D受容体の発現が有意に亢進しており、がん細胞に発現するNKG2Dリガンドを認識する経路が関与していると研究チームは考えている。
本研究成果は、ウイルス感染に対する免疫応答に着想を得た新たながん予防および治療戦略の創出につながることが期待される。