名古屋大学と理化学研究所の研究グループは、天気予報と同様の仕組みで数理モデルと実測データを最適に結び付ける新しい手法を用いて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予測を開始した。毎日得られる最新のデータを活かし、ウイルス感染の高精度予測が可能だとする。
本手法に応用されたのは、天気予報の要であるデータ同化の技術。統計数理と力学系理論に基づきシミュレーション(数理モデル)と現実世界(実測データ)を結び付けることで、実測データに含まれるノイズの影響を緩和するなど予測精度の向上に寄与する。
実測データには、毎日得られる三つのデータ(①入院治療などを要する人の数、②退院または療養解除となった人の数、③死亡者数)を使用。数理モデルには、代表的な感染症数理モデルとして知られるSIRモデルをCOVID-19の特徴に合わせて独自に拡張した「拡張SIRモデル」を構築した。これらに天気予報で用いられる高度なデータ同化手法(アンサンブルカルマンフィルタ)を適用し、融合させた。
以上のデータ同化により、まず、1人の感染者が何人に感染させたかを表す「実効再生産数」を推定した。実効再
生産数は直接知ることができないが、感染拡大の指標として有用であり、全国のデータを使ってその推移を推定したところ、過去3回東京都に出された緊急事態宣言の期間に減少が見られ、感染抑制効果を確認することができた。
また、これらの感染抑制効果に対応した3つの予測シナリオおよび感染抑制効果がゼロの場合の予測シナリオで、感染推移の将来予測を行った結果を公開した。今後は、ワクチン接種の効果や人流・気温などの要素も取り入れ、より精緻な予測を目指すことで、感染拡大の防止や先手を打つ対応計画の策定などに貢献することが期待される。