近年、デジタル技術を使ったシステムや講義を積極的に導入している関西大学。その背景には、 2016年に創立130周年を迎えるにあたり策定した中長期的ビジョン「Kandai Vision 150」の中で示した、「考動力」や「革新力」を育む教育の実践、インクルーシブな教育の推進、学修成果の可視化と学修者本位の教育の実現という目標があります。高度なデジタル技術を活用し、全学的な取り組みを精力的に推進する関西大学の「今」について、藤田髙夫副学長にお話を伺いました。
最先端デジタルの活用で学びのシーンに変容を
学校法人関西大学は今後の20年間に向けた行動指針である「Kandai Vision 150」の中で、「教育」「研究」「社会貢献」「組織運営」の4分野について具体的な将来像を描きつつ、前半の10年間における各分野の政策目標を定めています。大学・大学院における教育分野では、グローバル化する社会の中にあって学生が自ら考え、行動し、社会を改革できる力─「考動力」「革新力」を育成することをめざし、学生が主体的に学ぶ教育方法への変容を急務としています。
そのための柱となる施策が、BYOD(Bring Your Own Devise)を前提としたICT活用教育を始めとする「デジタル技術を駆使した教育」環境の整備です。2018年からは、学生が自分専用のノートパソコンを学内に持参して学ぶBYOD(Bring Your Own Devise)を推奨。校内にWi-Fi環境を整備し、学生はレポートやプレゼンテーション資料の作成、学習支援システム(LMS)を活用した予習・復習等の日常的な学習活動にとどまらず、シラバスによる科目検索、履修登録、成績発表、レポート提出や就職活動に至るまで、パソコン等のデジタルデバイスを活用しています。
そして2021年3月、文部科学省「デジタルを活用した大学・高等教育高度化プラン(Plus・DX)」に2件の取り組みが採択されたことを契機に、既存の仕組みの転換や社会の変革に向けてDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進力となると考え、「関西大学DX推進計画」を策定。「学生の学習機会の制限・制約バリアの軽減除去」「学修成果の可視化」「DX推進に対応したインフラ、環境整備」「学内業務の効率化」の4点を中心に3カ年の目標を立て、遠隔・対面の学習空間をハイブリッドに活用する「ブレンド型教育モデル」の全学的実現に取り組んでいます。
特にデジタル技術を駆使した「学修成果の可視化」に力を入れ、テストやレポートの提出などに使われている教育支援ツール、関大LMS(Learning Management System)の大幅な機能強化を図り、学生一人ひとりが学習履歴・習熟度をつぶさに把握できる仕組みづくりを作成中です。
藤田副学長:「本システムが完成すれば、現在までの履修科目や習熟度を把握することで、自分の興味ある分野が明確になります。2、3年生に対しては、次に何を学ぶべきかという指針を提示する仕組みができないかと構想中です。従来、専門分野に関しては主にゼミの教員がその役割を担ってきたわけですが、本システムにより、専門分野以外の学びに関するアドバイスも可能になります。さらにキャリア支援システム(KICSS)と連携させ、入試から卒業・就職までのキャリア・ディベロプメント・システムを構築し、学生一人ひとりに最適化したキャリアサポートを行う予定です。」
オンデマンドシステムで、オンライン授業をさらに充実
2020年春に起こったコロナ禍への対応策として、授業のオンライン化も急速に進みました。関西大学では2021年度春において、全講義の8割が対面、残りはオンライン形式で実施されています。現在、導入を進めているオンライン授業用のプラットフォームであるGSC(Global Smart Classroom)は、所属以外のキャンパスで開講される授業に、バーチャルでありながら臨場感を失うことなく積極的に参加できるクォリティを誇っています。 今後は、指定された時間にアクセスして参加するリアルタイム形式のオンライン授業に加え、その授業を録画した動画を自分の都合の良い時間に見て受講できる、オンデマンド形式の授業も用意される予定です。
藤田副学長:「オンデマンド形式は、大人数の授業などに効率的に対応できることがわかってきました。オンデマンド形式、リアルタイム形式それぞれに適した授業を見極め、双方の授業をどう設計していくかというガイドラインを作成し、オンラインシステムの充実を図っています。オンライン授業における最大のメリットは時間と空間の制約緩和ですが、学生からの質問への対応や、講義中に成果発表をしてもらう時などの双方向性をどう担保していくかが今後の課題です。オンラインの利点を活かしつつ、デメリットを最小化できるような科目配置を検討中です。」
オンデマンド授業向けには、安全で安定性の高い講義収録・配信システム「Panopto(パノプト)」を導入。関大LMSと連携して視聴ログを収集し、学生別やシーン別の再生回数を集計解析できるので、教員側としてはコンテンツの改善や反転授業への活用も可能になります。また、学生は資料の画面と教員の授業画面を同時に見ることができ、任意の部分にメモを残して繰り返し視聴できるなど、自分のペースで効果的に学べます。さらに、学生の学習機会の制限・制約・バリアを軽減・除去する取り組みとしてAIを利用した自動字幕化を行い、すべての学生が学びやすい環境整備─インクルーシブキャンパスの実現をめざしています。従来の授業における様々な制約を軽減するオンライン授業は、今後コロナ禍が収束した場合も、対面授業と並行して続けていく予定とのことです。
学内から海外の学生と接続する協働型の授業も
関西大学は、これまで進めてきた国際化戦略にも最新のデジタル技術を導入しています。
藤田副学長:「関西大学では2014年から、次世代のグローバル人材輩出のための環境づくりをめざし、異文化イマージョン教育構想として「トリプル・アイ構想(Intercultural Immersion Initiativesの頭文字から命名)」を掲げてきました。学内外で英語を用いた多様な研修や留学を日本人学生と受入留学生が共に体験し、コミュニケーション力はもとより、共感力や創造性、積極性に支えられた異文化適応能力を養うという構想です。」
その具現化のひとつが、全国に先駆けた2014年からの「COIL(Collaborative Online International Learning)」への参画。COILはニューヨーク州立大学によって開発された、オンラインを用いて海外の大学とで一緒に学ぶ協働型の授業プロジェクトです。関西大学では、自身が運営するマッチングサイト等を通じて諸外国の大学教員やスタッフと互いに協力しあい、双方の学生チームが画面を通して相手国の学生とリアルタイムでディスカッションしたり、時差がある国とは録画を活用したりして交流や学びを深めあうといった、プロジェクト型の学習等に取り組んでいます。KU─COILネットワークは現在台湾、韓国、マレーシア、メキシコ、中国、ブラジル、タンザニア、インドネシアなどの国々に広がり、COILを取り入れた授業は社会学、政治学、ビジネス、法学、医学、物理学、化学、工学など幅広い分野にわたっています。
藤田副学長:「COILによる授業の本質は、異文化をもつ学生と共に学び、交流し、理解を深め合うことです。留学は外国語や異文化に囲まれる良い機会ですが、時間的、経済的な制約を伴います。COILに参加すれば、日本にいながら異文化に肌感覚でふれる体験ができます。効果的な学びを提供するために、授業設計から始まり、海外の授業と本学の授業をどうマッチングすれば良いかを常に考えています。」
COILを体験した学生には、数週間のプログラムであっても外国語運用力の向上がみられています。今後はリテラシーだけではなく、問題解決力や異文化に対する態度などコンピテンシーに関する変化も検証し、より一層のプログラム改善につなげていく予定です。
またトリプル・アイ構想のさらなる推進の一環として、外国人留学生に向けた日本国内での就職促進プログラムなど手厚いサポートを行い、外国人留学生を増やす計画も練っています。
藤田副学長:「国際化や異文化理解は特別な環境でなくても体験できます。COILで発言することも、日本にいながらの留学体験も、関西大学の中で学生が自ら手を伸ばせば実現できるのです。私たちは新しい世界への扉の前まで学生を連れて行き、学生が自分で未来へ続く扉を開けるためのサポートは惜しみません。関西大学はこれからもデジタルを活用し、時間や空間・異文化などの垣根を超えた学びの機会を創出していきます。」