北海道大学、明治大学、京都大学、アデレード大学、オーストラリア国立大学、コペンハーゲン大学などの国際共同研究チームは、世界でカモノハシとハリモグラの2グループしかいない「卵を産む哺乳類」(単孔類)の苦味感覚を分析した。
ヒトを含む胎生哺乳類と、カモノハシ・ハリモグラの単孔類は、1億8760万年前(ジュラ紀)に分岐したと推定されている。哺乳類の仲間でありながら現在まで「卵を産む」という哺乳類の祖先の特徴を残している単孔類の研究は、哺乳類の進化を明らかにする上で重要な意味を持つ。
そこで本研究チームは、今回、単孔類の味覚に着目し、中でも毒物などの有害物質を検知して食べられるものの選択に関わる「苦味感覚」を調べた。その結果、カモノハシは苦味受容体を7種類しか持たない(ヒトは26種類)にも関わらず、その中には多様な苦味物質を一手に検知できる万能型苦味受容体が含まれており、研究に用いた苦味物質24種類のうち18種類を検知できることがわかった。一方ハリモグラは、苦味受容体を3個しか持たず、かつカモノハシが持つ万能型の苦味受容体を失っており、検知できる苦味物質の数が少ないことが認められた。
この結果から、半水生で水中の様々な生物を食べるカモノハシが適切な食物選択に苦味感覚を利用しているのに対し、陸生でアリやシロアリに特化した食性のハリモグラは苦味の重要性が下がり、限られた苦味しか感じなくなった可能性があるとしている。
また、単孔類の苦味受容体のほとんどは、胎生哺乳類の苦味受容体TAS2R16と近縁で、これらは共通して植物などに含まれる有毒な配糖体を苦味として検知することがわかった。つまり、植物毒を苦く感じる能力は、単孔類と胎生哺乳類の分岐以前から一定の役割を果たし、現世まで維持されてきたことがうかがえる。
本研究を基礎に、単孔類の味覚機能の進化とその生態的意義が一層解明されることが期待される。