奈良先端科学技術大学院大学の箱嶋敏雄教授、東京医科大学の半田宏特任教授、名古屋工業大学の柴田哲男教授らの共同研究グループは、約40年間詳細が不明であったサリドマイドの催奇形性(胎児に奇形が起こる危険性)にまつわる問題をついに分子レベルで解明することに成功した。
サリドマイド(注)は、鏡像異性の関係にある右手型と左手型の分子が存在するが、そのうち、左手型のみに催奇形性があるとされた(左手型催奇形説)。しかし、安全な右手型サリドマイドを服用しても、からだの中で左手型との混合物に変化(ラセミ化)するため、左手型催奇形説には疑問が残ったままであった。
2010年に半田特任教授らは、サリドマイドと結合したタンパク質「セレブロン」が催奇性を誘導することを突き止めていた。今回、右手型と左手型のサリドマイドを用いてセレブロンとの複合体のX線結晶構造解析を行った。その結果、右手型と左手型がセレブロンとの結合部位である3つのトリプトファンポケットに収まる様子の詳細をそれぞれX線結晶構造解析により捉え、左手型が右手型よりも安定な複合体を形成することを構造レベルで証明した。
定量的な結合解析により、左手型サリドマイドが右手型に比べて約10倍強く結合していること、さらに、左手型がセレブロンと強く結合することで、続く「自己ユビキチン化」を強く阻害することを確認。これにより、左手型が催奇形性を誘導すると推察され、40年近く謎であった左手型サリドマイド催奇形性説を分子レベルで解明した。
今後、催奇形性のない安全なサリドマイド型治療薬の開発が期待されるほか、新規治療薬の開発に向けての大きな足掛かりになることが期待される。
(注)1950年代に催眠鎮静薬として販売された医薬品。催奇形性の副作用により使用中止。近年、多発性骨髄腫治療薬として再認可された。
論文情報:【Scientific Reports】Structural basis of thalidomide enantiomer binding to cereblon