東京理科大学の後飯塚僚教授らの研究グループは、貧血や感染症の際に骨髄以外の組織で起こる緊急造血に関与する細胞ならびに分子メカニズムを解明した。
造血幹・前駆細胞は骨髄に存在し、様々な血液細胞に分化する。しかし、感染症、貧血などの白血球や赤血球が緊急に大量に必要な場合には、骨髄以外の組織、特に脾臓で、血液が作られることが知られていたが、それに関与する細胞や分子メカニズムについては不明だった。
リポ多糖(LPS)は細菌の構成成分であり、これを投与すると感染症時と同様に髄外造血が生じる。今回、このようなLPS投与による髄外造血モデルを用いて解析した結果、脾臓の間葉系細胞でTlx1(脾臓器官形成に必須の転写因子)の発現上昇と造血制御因子の産生増加がみられ、造血幹・前駆細胞が本細胞に近接して局在することが判明した。
また、マウスの脾臓間葉系細胞のTlx1を欠損させると、LPSによる造血制御因子の産生亢進ならびに脾臓での造血幹・前駆細胞数の増加がみられなくなった。これにより、脾臓におけるTlx1発現細胞ならびに本細胞におけるTlx1の発現上昇が、緊急時造血には必要と判明。さらに、Tlx1を高発現させると緊急時造血が再現可能なこともわかった。
以上の結果から、Tlx1を発現する脾臓間葉系細胞ならびにその細胞におけるTlx1発現上昇が緊急造血に必要であること、また骨髄とそれ以外の組織での造血は異なる細胞群と転写因子によって制御されていることが、初めて明らかになった。
今回の成果により、造血幹・前駆細胞の維持や機能に関わる環境構成要素の共通原理解明への貢献や、容易に採取可能な脾臓間葉系細胞を用いた造血幹細胞培養系の構築への応用も期待できる。