長らく、医学と看護、スポーツ健康科学を学びの軸として歩んできた順天堂大学。この10年の間に、国際教養学部、保健医療学部、医療科学部、健康データサイエンス学部を相次いで開設。2024年には薬学部を開設し、今や9学部・5研究科(大学院)を擁する「健康総合大学」としての地歩を固めつつある。近年その取り組みは、附属病院による高度先進医療、地域医療、高齢者医療をはじめ、医薬品の開発支援や知財業務、治験のほか、大学発ベンチャー企業の設立、再生医療、看護やスポーツなど広範囲に及ぶ。今年、新たに学長に就任した代田浩之学長に大学としてのビジョンや人材育成方針について伺った。
人生100年時代に求められる医療とは。
社会の要請に応え「健康総合大学」としての充実を図る
「本学のルーツは江戸時代に開かれた蘭医学塾に遡ります。開学以来約2世紀に渡って、『教育』『研究』『診療・実践』という3つの柱を軸に、医療・健康・福祉を実践できる全人教育を行ってきました。この10年の間に5学部を開設し健康総合大学としての陣容を整えつつあるのは、時代と社会の要請に応えた姿なのです」
人生100年時代といわれる現代、いかに健康長寿を実現するかが課題の一つとなっている。高度で複雑化した医療―先進医療、救急医療、がん治療、高齢者医療など―を担うには、医師、看護師に加え、実践力のある医療専門職や、健康科学や予防医学に資するデータサイエンスのスペシャリストが必要だ。「医療の質を向上させるには力量のあるメディカルスタッフ養成が必須です。これは、私たち順天堂大学に課せられたミッションだと受け止めています」
一連の学部設立により、同大学では様々な医療専門職を目指せる道が開かれている。
「医療系大学というと医師や看護師に目が向きがちですが、本学では、薬剤師(薬学部)、リハビリを担う理学療法士や、放射線を取り扱う診療放射線技師(保健医療学部)、検査・分析を行う臨床検査技師、透析装置や人工心肺を扱う臨床工学技士(医療科学部)などの医療専門職を目指すことが可能です。総合大学であることを活かし、チーム医療についてもしっかり学んでもらいたい」
さらに、と代田学長が言葉をつなぐ。「教員と学生の距離が近く面倒見がよいのも本学の伝統です。私の研究室近くに教員と学生との面談ルームがあるのですが、いつも盛況です。教員が熱心に指導にあたるからこそ、学生も質問がしやすく勉学に励む風土ができています」。それが、医師や看護師など国家試験の高い合格率にも表れている。
「産官学民の連携など、やるべきことはたくさんある」と語る代田浩之学長
2024年4月、新たに薬学部が誕生。
薬学研究のトップランナーを目指す
なかでも最新の学部が、2024年4月、浦安・日の出キャンパスに誕生した薬学部だ。同学部がめざすのは、臨床実践能力の高い薬剤師と臨床を理解した創薬研究者の養成だ。
「健康総合大学」ならではの臨床・研究環境に恵まれており、医学部・医療看護学部などと連携しながらチーム医療を学べるほか、薬物治療も系統的に学ぶことができる。6つある附属病院では、先進医療、救急医療、周産期医療、高齢者医療、精神医療、がん治療など特色ある高度先進医療を提供しており、薬学部の学生は専門性の高い病院で、調剤、服薬指導の実習を受けられる機会がある。
また順天堂大学には、がん専門薬剤師、DMAT(災害医療支援チーム)で活動する薬剤師、アスリートをサポートするスポーツファーマシストなど、さまざまな分野で活躍する薬剤師が在籍している。1年次から、先端的な研究を実践している若手教員のマインドに触れ、臨床研究を学ぶので、学生の希望に応じた薬学研究が実践できる。また、薬学研究科(大学院)の設置や高度な研究基盤センターの整備も進めるなど、薬学研究のトップランナーを目指している。
薬学部、医療科学部、健康データサイエンス学部のある浦安・日の出キャンパス
グローバル化とデータ解析をけん引
国際教養とデータサイエンス
「国際教養学部」では、医療・健康というバックグラウンドのもと、国際性を習得しつつリベラルアーツ教育が受けられる。グローバルな視点でヘルスケアに関わる専門性を磨き、国内外で活躍する道が開ける。「WHOのような国際機関で活躍する人材を送り出すといったことを通じて、本学の国際競争力や展開力など、グローバル化をけん引する存在になってもらいたい」
また、グローバルを意識した教育方針は全学にも及んでいる。従来より外国語教育の充実化を図り、学生の留学・短期の海外研修を後押してきた。海外から多くの留学生を受け入れ学内の国際化も進めている。全学部の学生は入学後、春と秋にTOEFLの受験が義務化され、英語力の習熟度を定期的にチェックできるようになっている。
データサイエンスが大学教育のトレンドとなるなか、2023年に開設されたのが「健康データサイエンス学部」だ。「今後、医療の現場や研究開発のクオリティを維持するには、データサイエンスに基づくサポートが重要です。数理統計から得られた知見やAI技術の活用が欠かせない時代になったのです」
例えば、創薬分野では、動物実験に制限がかかるなかAIによるシミュレーションが新たな開発方法として注目されている。医療やスポーツ、健康科学の分野だけでなく、ビジネスなどあらゆる領域でAIやビッグデータを扱い、データ解析に長けた人材が求められるだろう。
データサイエンスやグローバルの視点からもスペシャリストの養成を見据える順天堂大学。「健康総合大学」としての今後の動向に要注目だ。
順天堂大学 学長
代田 浩之
1954年 生まれ
1979年03月 順天堂大学医学部卒業
1979年04月 虎の門病院 内科
1987年04月 順天堂大学医学部内科学教室・循環器内科学講座 助手
1992年11月 博士(医学)取得(順天堂大学)
1993年08月 米国 Mayo Clinic,Division of Cardiovascular Diseases, Visiting Physician and Scientist
1995年11月 順天堂大学医学部内科学教室・循環器内科学講座 講師
2000年07月 順天堂大学医学部内科学教室・循環器内科学講座 主任教授
2014年04月 順天堂大学医学部附属順天堂医院 院長
2016年04月 順天堂大学大学院医学研究科 研究科長・医学部 学部長
2019年04月 順天堂大学保健医療学部 学部長
2023年04月 順天堂大学大学院保健医療学研究科 研究科長
2024年04月 順天堂大学 学長