東京大学大学院農学生命科学研究科の日浦勉教授と北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの中村誠宏教授らは、14年間に及ぶ大規模野外実験により、森林遷移における地上部と地下部の相互作用を明らかとした。
都市部や都市周辺部の森林緑地では、重機や人間によって押し固められた土壌圧密が土壌劣化の主要な原因の一つとなっている。このような状況下での森林の発達メカニズムを明らかとすべく、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター苫小牧研究林では、土壌条件の操作による影響を観察する森林遷移実験を2007年から14年にわたり継続している。
今回、土壌圧密は、地上部の樹木種数や樹木バイオマス(ある空間に生育する樹木の根元から130cmの高さの空間当たりの断面積合計値で表した)を減少させることを明らかとした。対照区と比較して、その差は種数で約1.2~2.4倍、バイオマスで約2.3~5.3倍であった。
また、地上部の樹木種数と土壌微生物の分解活性には正の相互作用が働いており、土壌圧密は、地上部だけでなく地下部の土壌健全性(土壌微生物群集の多機能性)も低下させることがわかった。さらに、土壌圧密により、特に鳥によって種子散布される樹木の定着が阻害されていることも判明した。
以上の結果から、地上の樹木の多様性と地下の土壌の健全性は相互に依存していることが考えられる。本研究で得られた知見は、放棄された土地の自然再生や都市林の造成を図る上で重要な示唆を与えるものである。例えば、森林の発達過程で過密になった樹木を間引く際には、樹木種数を減らさずに個体数の多い種を選伐するなどの具体的な施業方法が有効な可能性がある。本研究の実験は、未熟な火山性土壌(軽石)上の冷温帯落葉広葉樹林で行われているが、今後は他の土壌や森林タイプでの検証も期待される。