東京大学大学院理学系研究科の姫岡優介助教、同大学院情報理工学系研究科の堀口修平大学院生(研究当時)と生産技術研究所の小林徹也教授からなるグループは、「細胞死」の数学的定義を提案し、細胞の生死を判定する数学的手法を開発した。
生きていることと死んでいることの違いは何かという問いは、生命科学における根源的な問題のひとつである。本研究では、死の中でも細胞死に着目し、細胞死の数理理論の構築を目指したという。
細胞死の数理科学的な定義として、「細胞状態や環境条件を制御することによって、あらかじめ定めた『生きている状態の代表点』へと戻れる状態は『生きている状態』であり、戻れない状態は『死んだ状態』である」を提案した。この定義に基づき、細胞代謝モデルの生死判定手法の構築にも挑んだ。
細胞の活性状態を『生きている状態の代表点』とした場合に、不活性状態は死んでいる状態と言えるのだろうか。それとも何らかの制御を行えば活性状態に戻ることができるのだろうか。これを、開発した数理手法“Stoichiometric Rays”により計算すると、どのように酵素濃度や外部栄養濃度を制御しても、不活性状態から活性状態へ戻ることは不可能であることが分かった。つまり、不活性状態は『死んだ状態』だと言える。
さらに、研究グループは細胞代謝系の簡単な数理モデルを3次元で描き、状態空間の中に、それを跨ぐと二度と活性状態へ復帰できなくなる境界面を見出した。これを、渡ってしまえば二度と『生きている状態』に戻れない“三途の川”になぞらえて、Separating Alive and Non-life Zone (SANZ) 曲面と名付けた。
本研究成果は、「死」を定量的に理解するための基盤となり、生命と非生命の本質的差異へと数理科学的にアプローチする土壌となることが期待される。
論文情報:【Physical Review Research】Theoretical basis for cell deaths