麻布大学獣医学部動物繁殖学研究室の影山敦子特任助教、柏崎直巳名誉教授、伊藤潤哉教授らのグループは、岡山大学、徳島文理大学、理化学研究所、東京大学、マサチューセッツ大学との共同研究により、受精後の正常な胚発生に卵子内への亜鉛の取り込みが必要であることを解明した。
近年、不妊症が大きな社会問題となるなか、体外受精などの生殖補助医療技術では依然として出産まで至る割合は低いことが知られる。その原因の一つとして、受精後の受精卵(胚)が途中で発生を停止することや染色体異常を起こすことなどが挙げられる。
本研究グループは、以前から生殖機能における亜鉛の役割について注目した研究を行ってきた。必須ミネラルの一つである亜鉛が体内で不足すると、妊娠しにくい状態となることが知られているものの、亜鉛の詳細な役割は不明だった。
今回は、卵子内での亜鉛の役割に着目し、卵子に亜鉛を取り込む役目をもつ亜鉛輸送体ZIP10を欠損したマウスを用いて受精・胚発生の状態を確認した。その結果、ZIP10欠損マウスでは卵子内亜鉛量が少なくなり、産子数が減少することを見出した。
また、ZIP10欠損マウスでは、受精に必要な「亜鉛スパーク(一過性の亜鉛の卵子外への放出)」が起こらないことも発見した。これにより、受精はするものの、胚発生割合が低下してしまうことが明らかとなった。
以上の結果から、ZIP10による卵子内への亜鉛の蓄積および亜鉛スパークによる放出が受精後の正常な胚発生の進行に重要であることが世界で初めて解明された。
本研究により、受精・胚発生の分野において亜鉛の重要性が改めて認識され、今後は亜鉛に着目した生殖補助医療技術や受精・胚発生培地の開発、さらには亜鉛サプリメントによる不妊症の予防等につながることが期待される。