軟骨細胞の足場材となる新たなハイドロゲル(高分子の鎖が形成するネットワークが水などの液体を含んだもの)を東京理科大学の研究グループが開発し、簡便にone-pot合成することのできる合成経路の確立にも成功した。
高齢化の進む現代社会において、加齢に伴う軟骨の磨耗による関節疾患は増加傾向にある。損傷した軟骨は自然に修復することはないため、現在は人工関節への置換が広く行われているが、術後のQOL低下や再置換手術の必要性などから、これに替わる軟骨組織の再生医療に期待が寄せられている。
生体内では、細胞は細胞外基質(extracellular matrix: ECM)を足場として増殖するため、体外で細胞培養を行う際も、足場となる材料が必要となる。しかしこれまで、軟骨細胞の足場材料は、十分にECMを模倣できていなかった。
本研究では、キトサン/ポリエチレングリコール/自己会合性ペプチドを用いて、相互侵入高分子網目構造(interpenetrating polymer network: IPN)と呼ばれる、複数の高分子が互いに絡み合って多重の網目構造を形成するハイドロゲルを開発した。さらに、このIPNゲルを、薬剤の添加や放射線の照射を含む多段階の合成反応系ではなく、one-pot(単一の反応容器内)で簡便に合成する技術を確立することにも成功した。この合成系は、ペプチドが自律的に繊維状の構造を形成する現象(自己組織化)と、それに続くキトサンとポリエチレングリコールの共有結合形成によって、再生効率が良く、生体に問題を引き起こしにくいものとなっているという。
実際に、このIPNゲルを細胞足場材料として軟骨細胞を培養する実験をおこなったところ、自律的な細胞増殖と組織化が進むことが示され、足場材料としての有用性が確認された。
本成果は今後、軟骨再生医療の発展に大きく寄与すると期待される。