福岡大学医学部の沼田朋大講師と生理学研究所の岡田泰伸名誉教授らの研究グループは、膨張した細胞の大きさを一定に保つメカニズムを世界で初めて解明した。
細胞は常に一定の大きさに保たれており、ウイルス感染や抗がん剤の投与、遺伝子変異などによってこの大きさ調節メカニズムが失われると、正常に機能しなくなって死んでしまう。そのため、細胞の大きさ調節メカニズムを解明することは、細胞の生死の制御を行うことにつながり、がん細胞の除去や新たな治療の開発に結び付くと期待されている。
今回、研究グループは、細胞の大きさを一定に保つための機能のうち、膨らみを抑えて細胞をもとの大きさに戻す仕組みがあることを発見した。刺激・興奮により細胞が膨張すると、膨らみを感知する細胞膜上の膨らみセンサータンパク(TRPM7)が細胞内のカルシウムを増やすことで、細胞を元の大きさに戻す働きを持つタンパク質VSORを生み出す。そして、TRPM7は膨らんで大きくなった細胞膜にVSORをつなぎ留め、VSORが細胞内のイオンをより多く外に出すことによって、細胞をもとの大きさに戻すという。すなわち、TRPM7は細胞の大きさを一定に保つために必須のセンサータンパクであり、TRPM7とVSORが協調して膨らんだ細胞を小さくすることが明らかとなった。
細胞の大きさや膨張に関連する研究では、乳がんで細胞が膨らむ(大きくなる)とがんが悪化することや、肥満によって大きくなった細胞が高血圧や動脈硬化などの生活習慣病を引き起こすことが知られる。本研究成果は、乳がんの病態解明と治療法開発、肥満の予防と解消にも新たな可能性を提示し貢献することが期待される。