柳沢:開成では、中学1年生は1学期の学校行事や部活の経験を通じて、ロールモデルとしての先輩を見習うことで、自主性、自律性を養います。進路選択についても、教員は口出ししません。最近は海外の大学に行く卒業生も増えていますから、その影響からか、学校全体で今年は40名強が海外のサマースクールに行っています。
部・同好会活動は70ほどあり、おおむね自分がやりたい部活は揃っています。OBによる億単位の寄付金を基金にしたのが『ペン剣基金』。自分がしたい研究を、大学の教員のように申請書を書き、審査を受ける。誰でも、つまり中学1年生でも、教員でも参加できます。審査を通ると平均20 ~ 30万くらいのお金が使え、最後に報告書を出すことが必要です。
チャレンジできる場、機会がたくさんあり、生徒たちは親とべったりとくっついているのが恥ずかしいという感覚を持つようになりますから、一番寂しい思いをしているのは母親かもしれません。
梶取:本校は自由と自立を重んじる学校と言われていますが、昔に比べると生徒ははるかに小粒になってきています。また男子校とはいえ、以前よりはひ弱になっている。これには親との関わり方の影響が大きいと思っています。今や高校も大学もグローバル化一色ですが、私は、海外に限らず、外に出ることを「広義のグローバル化」と捉え、そういう機会を増やし、まずは生徒の足腰を鍛えたいと思っています。
授業だけでなく、校外学習など様々な体験をさせながら、英語の4技能の強化だけでなく母語の4技能をきちんと身につけ、何にでも挑戦できるタフな生徒を育てたい。まだ模索中ですがそう考えています。
山極:それには個人指導、一対一の対話が必要で、そういう環境を作ることも大事だと思います。どれがフィジビリティが高いのかを見抜く力などは、経験のある人に少しだけサジェスチョンをもらうだけでずいぶん違ってきます。
梶取:将来、シンギュラリティが来ると言われる中で、単に技術を学ぶだけならおそらく学校はいらなくなる。やはり専門集団の大人がいて、いいこと悪いことも含め、いろいろなことを学べてこそ学校だと思います。
百瀬:確かに今の生徒、家庭は成功志向が強いと思います。また、反抗期を迎えないまま卒業していく生徒がいるのではないかとも懸念しています。母親が敷いたレールに乗り、冒険しない。他流試合も怖がる。反面、SSHで課題研究に取り組む生徒はタフになっていきます。
そこで今は、課題研究を理数だけではなく、人文社会系にも広げています。1年から開講し、何にでも挑戦する態度を育むきっかけの一つにしてほしいと。生徒には、家庭事情や経済的な問題を踏まえつつも、いろんな体験をさせ、より深く考える必要のある機会を作って、一歩先へとステップを踏んでいってほしいと思っています。
本校では生徒の動機付けについても工夫していて、その一環として大学の先生だけでなく卒業生、企業の研究所などからもゲストを迎え、話を聞かせてもらっています。
山極:動機付けにはやはり、時代の高みに上り、先を見る必要があると思います。具体的な目標を立てるまでは必要ないと思いますが、産業界でもアカデミアでもいいから、そこで頑張っている人たちの話を聞くことはとてもいいと思います。
佐藤: 『おもろチャレンジ』に一番興味を持ちました。特に院生よりも学部生にもっとチャレンジを促す仕掛けを考えられていることです。この春、千葉高に赴任して、まず大学に入り、大学院に入ってから頑張ればいいと考えている生徒がいることが少し気になりました。おもろチャレンジに応募してくる学部生は、将来はともかく、とりあえず今はこれをしてみたいということでしょうか。
山極:学部生の企画には、フラダンスを習いにハワイに行きたいなどの、将来の研究キャリアと全く結びついていないものもあります。自分の思いを第一にして、裸一貫で行ってやり遂げてくる、それは将来の目標に直接結びつかなくても大きな力になるはずです。高校現場では誤解もあるかもしれませんが、われわれは学部生を大学院で囲い込みたいとは思っていない、可能性を伸ばすためには他へいってもらってかまわないと思っているからです。
佐藤:高校生にもこういうチャレンジをさせたいですね。大学に進んで、自分の研究をもっと深めていくのが、「チャレンジする」ということではないかと思います。本校でも総合学習での調べ学習や、『千葉高ノーベル賞』などがありますから、こういう形でどんどん研究にチャレンジし、その上でこういう大学に行きたいというようになってほしい。
まず大学に入っておいて、チャレンジは大学院でしよう、あるいは海外に出ようと考えているのを、高校や大学でも「チャレンジする」としたいと、今日のお話を聞いて感じました。