平:男子生徒には、《マニアになる脳》というか、興味・関心が湧くと深掘りする子が多いですから、知識をいかに定着させるかより、いかに刺激を与え続けるかが学校の役割になると考えています。そのための一つが国際交流であり、もう一つが『教養総合』です。後者は2004年から始めたもので、高1、高2で学年の枠を取り払って土曜日に2時間、基本的には少人数授業で、人文、語学、芸術、スポーツ、科学、それとリレー講座に分けて、各学期で一つ取ることになっています。必修で、高1高2で全部で6種類取ることになります。

当時大学では教養教育が縮小され、一方、大学入試に特化した効率的な勉強を重視する生徒が増えてきていたため、教養教育を高校で担おうとわれわれ教員が始めました。やはり学校は、刺激を与える装置を用意するのが一番大事だと思っています。

平 秀明 校長先生(麻布中学校・高等学校)

平 秀明 校長先生(麻布中学校・高等学校)


 
山極:スポーツと違い、学問の力は複線で伸ばしていかなければなりませんから、一つのことばかりやるのは考えものです。ここで修めたことが別の場面で活きるわけですから、将来、方向転換できるような幅の広さをもつことが学問の豊かさ、可能性につながると思います。

杉田:『おもろチャレンジ』は本校のSGHの取組とよく似ています。「ローカルな生物資源を利用してグローバルな製品として発信しよう」というテーマの下、市場調査から海外フィールドワークまで行います。海外に出たり、会社を起こしたりなど、かつての高校生からすれば夢のようなことが、手の届くところにある。このような取組がきっかけになり、チャレンジするための壁は低くなっているのではないかと思います。

ちなみにこのプロジェクトに参加した生徒の一人は特色入試で合格させてもらいました。京大へは毎年6名程度で行っていますが、興味を持つ生徒も相当数いますから雰囲気もあっているのかなという気もしてきました。挑む力ということでは、ご出席の公立校同様、生徒には第一希望は譲らないというようなところがあり、浪人率は高いほうだと思います。

また勉強だけでは人間の幅を広げられませんから、学校生活の中でできるだけいろんなことに挑戦できるように、いろいろな仕掛を用意しています。典型的なのが『一高祭』と『歩く会』、そして『一高オリンピック』と呼ぶ体育祭です。どれも、生徒が実行委員会を作り自分たちの手で作り上げていき、教員はサポートに回るだけです。かかり集団とか小集団の中で、失敗も成功も味わうことで、自信がついてくる。自信がないと何事にも挑戦できませんから、学校行事、部活も含めて学校の中で、自己肯定感や自信をつけさせ、挑む心を後押していくのが公立学校のやり方ではないかと思っています。

卒業生の声は、やはり生徒の進路に大きな影響を与えます。学部生、特に1年生が、どれだけ入学後に充実感を感じているか、逆に言うと、大学が学部生をどれだけ大切にしているかが、必ず次の世代に如実に反映されてくると思っています。

杉田 幸雄 校長先生(茨城県立土浦第一高等学校)

杉田 幸雄 校長先生(茨城県立土浦第一高等学校)


 
山極:SGHやSSHで学び、野心を持って大学に入ってきても、それにきちんと応えられないようではまずいと思います。生意気な学生は生意気なりにいろいろなところで芽を出してほしいですから、まずは1、2回生でそのためのチャンスを与えたい。1回生の野心をどれだけ伸ばしていけるかがこれからの大学のミッションでもあると思います。

岸田:3年前から京大ツアーを始め、今年は40名参加しました。本校の雰囲気は体育祭と文化祭の違いはあれ湘南高校と似ているかもしれません。文化祭では、3年生は80分の演劇を2日間で8回こなします。お客さんも今年は二日間で1万1717名来られました。1年生のアンケートを見ると、大体6割が文化祭に惹かれ、あと部活動にもということで来ています。その点では同質の生徒が増え、昔に比べ全体的に小粒になってきているかもしれません。

ただ、文化祭を引き継ぐ際には、毎年改良していこうとしていますから、まだまだチャレンジ精神は旺盛だと感じています。SSHやSGHの指定は受けていませんし、学校で3年間過ごしたいと海外留学にも行きたがらない生徒が多いですから、その目を、いかに外に向けさせるかが一番の課題だと考えています。

岸田 裕二 校長先生(東京都立国立高等学校)

岸田 裕二 校長先生(東京都立国立高等学校)


 
竹鼻:昨年度「宇宙リチウム問題」の研究で京大総長賞を受賞した卒業生が、7月の『土曜未来講座』でその話をしてくれました。実は4年前にもこの卒業生に「理系の先輩に学ぶ」という『土曜未来講座』をしてもらい、その影響もあってか、今年は浪人生も含めて、京大に9名入学させていただきました。女子は自信が持てない子が多く、100%自信がないと手を上げられない。

そこで、憧れの先輩と接したり、生徒同士で学内外での取組を報告し合ったり、「自分もできるかも」と思わせる仕掛けをたくさん用意しています。海外研修は30年ほど前から行っています。価値観の違いに気づき、親元を離れて他人の家で過ごすことで自立が図れます。英語の上達より、苦労を味わう経験の方が大切な学びだと感じています。3年前から3カ月留学も始め効果を上げています。

竹鼻 志乃 校長先生(豊島岡女子学園高校)

竹鼻 志乃 校長先生(豊島岡女子学園高校)


 

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京都大学

「自重自敬」の精神に基づき自由な学風を育み、創造的な学問の世界を切り開く。

自学自習をモットーに、常識にとらわれない自由の学風を守り続け、創造力と実践力を兼ね備えた人材を育てます。 学生自身が価値のある試行錯誤を経て、確かな未来を選択できるよう、多様性と階層性のある、様々な選択肢を許容するような、包容力の持った学習の場を提供します。[…]

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