受験生は大学を選ぶ際、どのような事を重視しているのでしょうか。巷間では「偏差値が高い大学=良い大学と考えられて偏差値で選ばれている」などという言説も聞きますが、受験生の側から見るとあまりリアリティがありません。私立大学は従来から、受験生の大学選択基準に高い関心を持ち、様々なマーケティング戦略を展開して、受験生の大学選択プロセスへの働きかけを行ってきましたが、最近では国公立大学でもこうした受験生の意識や動向についての関心は高まっています。今回は文部科学省が8月に公表した調査結果などから、受験生の大学選択基準について考えます。

 

河合塾調査では「設置学部・学科・専攻」を重視、文科省調査の結果は?

 

河合塾の大学入試情報サイトKei-Netのメールマガジン「Success Mail」(2021年5月14日配信)によれば、河合塾OB・OGに志望大学の決定方法について聞いたところ、次のような結果が得られたとしています。

志望大学の決定で最も重視したことは?(ロンゲストイヤー塾生対象アンケートより)
1.設置学部・学科・専攻…20%
2.入試難易度…18%
3.大学の知名度…17%
4.地元にある…5%
5.入試科目・出題傾向…5%
6.研究内容…5%
7.カリキュラム…5%
8.就職実績…4%
9.取得資格・免許…4%
10.学生の雰囲気…4%

これを見ると入試難易度(偏差値)の影響は強く見られるものの、設置学部・学科・専攻という入学後の学修内容に重きを置いて、大学を選んでいることが分かります。非常に真っ当な理由だと思います。ただ、大学の知名度や立地条件、就職実績など、学び以外の様々な分野にわたる情報への関心が高いことも分かります。受験生は複数の分野にまたがる情報を統合して大学選択をしている様子がうかがえる結果です。

さて、文部科学省が8月10日に公表した「第19回21世紀出生児縦断調査」でも学校選択の理由を質問しています。集計は男女別にも公表されており、それぞれ次のような結果になっています。

現在通っている学校を選択したのはどのような理由からですか。(複数回答)
<男子>
1.合格できそうだったから・・・39.1%
2.将来就きたい仕事と関連しているから・・・34.8%
3.自宅から近いから・通いやすいから・・・25.3%
4.特色ある取組を行っているなど授業内容に興味があったから・・・24.8%
5.卒業後の就職に有利だから・・・24.5%

<女子>
1.将来就きたい仕事と関連しているから・・・49.0%
2.特色ある取組を行っているなど授業内容に興味があったから・・・37.4%
3.合格できそうだったから・・・34.9%
4.学校の雰囲気がよかったから・・・33.7%
5.自宅から近いから・通いやすいから・・・27.3%

1位の回答を見ると男子と女子で違いが際立っているため、一部の新聞で記事なりましたのでご存じの方も多いと思います。これを見ると男子が入試難易度を過度に意識しているように思われるかも知れませんが、調査時期の影響が大きいと考えられます。この調査の調査期間は、2020年2月から4月および7月から9月です。つまり、調査の対象となった学年は、高大接続改革の初年度に当たる2021年度入試の前年に当たる2020年度入試を受験した学年です。入試改革による混乱等を避けるために、多くの受験生がより安全で確実な受験校選択を行った入試年度です。いつでも男子が偏差値重視の志向であるという訳ではなく、こうした受験環境の要因が影響したと言えるでしょう(他の調査では別の年度でもこれに近い傾向は見えますが・・・)。

一方、女子の回答では学校の雰囲気が良いことに重きが置かれていますが、この傾向はこれまでの他の調査でもしばしば見られる結果です。この21世紀出生児縦断調査結果は、大学進学者に加えて、短期大学、高等専門学校、専修学校・各種学校の進学先によるクロス集計が行われていますが、女子の回答では高専を除き、「学校の雰囲気がよかったから」が必ず2位に来ています。マーケティング戦略における重要事項とも言えるでしょう。

文部科学省 21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児) 第19回調査
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa08/21seiki/kekka/mext_01640.html

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神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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