期ごとに変わるテーマ、江戸とTOKYOをつなぐ落語
各期4回各回とも落語を一席~二席入れ、その落語を軸に話を展開する。古典落語の総数は、おおよそ500席程度だという。その中の自身の持ちネタからシリーズのテーマに合わせて各回話す噺を決定して内容を構成し、資料に当たったり現在のその土地をたずねてあるいたりして当日話せるネタを拾い上げていく。夏期講座のテーマ「食」では、まず江戸の名物であるうなぎの話が思い浮かんだ。
「例えば、うなぎの話なら、平賀源内が、『本日土用の丑の日』と紙に書いて貼ったら、客が押し寄せたみたいな話がありますが、一方で神田和泉町にあった春木屋というお店も土用の丑の日の元祖はうちですと当時の広告で言っている。しかし、この春木屋というお店の始まりがいつまでさかのぼることができるかがわからないし、源内と春木屋はどうやら時代もあわないので、源内が春木屋にアドバイスしたとも言えない。だから春木屋が始めたことかもしれないという説もあるんですよ、といったようにお話すると、聴いている人は、あーそういうこともあるんだ、となるんですよね。
みなさんもなんとなくちょっと知っているようなことの半歩つっこんだところが僕の伝えたいところなんです。正直いえば、ちょっと探せばすぐ出てくる情報エピソードでもあったりするんですけど、それを落語と一緒に合わせて、お話してお伝えする。またあっちにある史実とこっちにある逸話を並べたり比べたり突き合せたりすると、違った角度で見えてくるものがある。そうすると、あーそういうことね、あーなるほどね、と、ちょっと得したような気になったり、ちょっと楽しくなったりする。ちょっと豆知識増えたかな、それくらいを持って帰っていただけたらいいですね」
落語は、口伝えの古典芸能であるとともに大衆芸能でもある。その時代その時代の観客に訴えかけるように、笑ってもらえるようにアジャストされてできている。今の落語は武士が出てくる噺以外は、大体明治末から大正初期が背景だが、当時は、まだ江戸時代を知っているおじいさんやおばあさんがいたり和装で畳や板張りの家での暮らしがほとんどだったりと、社会全体が江戸にわかりやすくつながっていたので、現代において演じる場合でも、江戸から続いた社会の噺として受容されている、と寸志さんは言う。
落語そのものを歴史的資料として扱うのには慎重でなければならないそうだ。寸志さんは、「落語家の言ってることなんで」「落語の中ではこういわれています」と伝えている。それでも「落語はやっぱり江戸時代を知る良いヒントにはなりますから」と話す。
「落語の中には、『道中付け』といって、歩いていくルートを言い立てるものがあります。
『黄金餅』という落語では、『下谷の山崎町を出まして、あれから上野の山へぶつかります。山下をぐるっと回って、不忍池ぇ右にみながら、三橋わたって下谷の広小路にでる・・』といったように。実際、私も上野駅の東側から麻布の奥の方に至るそのルートを切絵図から現代の地図に落とし込んで二度ほど歩いたことがあるんですよ。そうすると、ルートの多少の揺れもあるし、もちろんまわりの風景などは大いに変わっているとは思いますけど、距離はそんなに変わらない。当時の人も、ずいぶん夜に、遠いところまで歩てきたんだな、そういう実感がわくんですよね。
だから、切絵図をみたら、ぜひ受講生の方にもその町名のあたりを歩きまわってもらいたい。落語はズバリ、イコール江戸ではないですが、落語を通して現代から遡って昔の東京から江戸の風景へと想像をふくらませてもらいたいです。今、目の前にある東京に江戸の世界がつながってるんだなぁと実感してもらえると嬉しいです。そこが、この東京都立大学の講座ならではだと思います」
学ぶことは楽しい。この講座を通して私自身が学んでいます
この講座で話しをするために、今まで開いてなかった本を開いたり、その土地をたずねたりして調べていくと発見もあり、学ぶことはやはり楽しい。この講座を通して、落語に対して認識が深まったり、高座で話す内容に返ってくるものもあったりと、日々の仕事にもプラスになっているという。
「例えば、落語で言われている『俸手振り』、『ごぼう』を売るときの売り声が、落語では『ん』をいれて『ごんぼう』というふうに売るという噺の枕みたいなのがあるんですよ。ところが、いろいろ調べていると『ごんぼう』といっているのは上方だけだったらしく、江戸では、やはり『ごぼう』と売っていたという話があって、そういうのにあたると、ハッとしますね。さきほどもお話したように、落語は口伝えの芸能ですから、基本は教わったものをそのままやる、けれど、こうして調べていくと話していたことが、実は事実とは違ったんだということがわかる、それはそれで勉強になります。
実際に現地を歩いてみて、噺にでてくる二つの町名の距離がどうにも近すぎて噺が成立しないんじゃないかと思うみたいなこともあります。ただ、それも、いい発見で、もう僕自身の楽しみになっています。学ぶということは、すごく楽しい。
今後、私自身が学びたいと思っているのは、もう少し古文書の勉強をしなおして、崩し字をさっと読めるようになりたいんです。今は一字一字、崩し字辞典と照合しながら読んでいるので、そういうのがさらさらっと読めるようになれたらいいなと思いますね。」
東京都立大学オープンユニバーシティでは、2020年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で、春夏の講座はすべて休講となってしまったが、以降オンラインを活用した講座を増やし、2021年度の春期からは対面講座の再開も試みている。また、オンライン講座ならではの特性を活かし「距離を越えた」オンラインスペシャル講座も企画している。
「学びたいという欲求を満たしてくれる」「文科系だけでなく理科系も充実している」「専門的な知識がオープンに得られて嬉しい」など、受講した方々の声からも、学ぶことの楽しさが伝わってくる。今後もオンライン講座と対面講座とそれぞれの特性を活かしながら、受講生の知的好奇心に応える魅力的な講座を提供していく。
東京都立大学オープンユニバーシティ
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