前回の当コラムで令和7年度(2025年度)大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の出題教科・科目について取り上げました。そこでは、「情報」の扱いと文系数学で「数学C」の扱いがポイントになると説明しました。今回はさらに踏み込んで、各大学が行う個別試験の出題範囲について考えてみます。早い大学では、今年度中に令和7年度(2025年度)入試、いわゆる新課程入試の教科・科目を公表するところが出てくる可能性もあります。必履修科目が受験科目になるとは限りませんので、各大学は慎重に検討したいところです。

(参考)前回コラム
2025年度入試科目は「情報」科目と文系数学の「数学C」に注目
https://univ-journal.jp/column/202190317/

 

共通テストの出題範囲が基準になるが個別試験の範囲はさらに広くなる

 共通テストの出題範囲は、すでに3月24日付の文書で大学入試センターから公表されています。例えば、教科・外国語の科目・英語は「英語コミュニケーションⅠ」、「英語コミュニケーションⅡ」、「論理・表現Ⅰ」が出題範囲となっています<表1>。正確には「英語コミュニケーションⅠ」なども教科・外国語の中にある科目名ですが、共通テストでは出題範囲としても扱われていますので、ここでも科目兼出題範囲として扱います。出題範囲の考え方は学習指導要領で必履修科目とされている科目を軸にして、現行課程における出題範囲に照らし合わせて、言わば読み替えるように、新しい指導要領の科目がプロットされています。作問する側の目線から見れば納得感のある設定です。英語以外の科目もほぼ同様に設定されていますが、「数学C」が課されていたり、地理、日本史、世界史の出題範囲に、「地理総合」や「歴史総合」が含まれていたりするなどの意外性もありました。

 さて、各大学は今年の夏頃に文部科学省から通知される「大学入学者選抜実施要項に係る予定」を受けて、2022年のできるだけ早い時期に令和7年度(2025年度)入試の教科・科目を発表します。この時には共通テスト利用方式だけでなく、各大学の個別試験についても入試で課す予定の教科・科目を発表しなければなりません。その場合、現行と同様に共通テストの出題範囲よりも広い範囲となります。特に難関大学の場合は、問題の難易度も共通テストよりも高くなるため問われる範囲も広くなります。ただし、高校現場で履修者がほとんどいない科目や範囲を指定すれば、多くの受験生から避けられ、志願者数の減少は必至です。18歳人口の減少が続くため、志願者数の減少はもう気にしないという大学があるかも知れませんが、令和7年度は18歳人口が前年の106万人から109万人とプラス3万人増加します。大学の志願者数減少が続くと思われる時期としてはかなり大きい数字です。そのため、出題範囲の設定ミスは避けたいところです。

「数学C」は文系数学の範囲内、「文学国語」を課す大学は一部にとどまる?

 前述のように、共通テストの数学で「数学C」が出題範囲となったことで、各大学が個別試験で「数学C」を課すこともできるようになりました。ただし、過年度生の経過措置を考えると、従来「数学Ⅲ」、「数学C」を課してこなかった、いわゆる文系数学は<表1>「社会科学・薬学・農学系」のパターンが多くなると思われます。

 英語は、難関大学以外は「英語コミュニケーションⅢ」と「論理・表現Ⅲ」は出題範囲から除外する大学も多いと思われます。国語は、進学校では「論理国語」と「古典探求」を履修する高校が多くなると思われますので、残念ながら「文学国語」を出題範囲に含めない大学も多くなると予想されます。ただ、「言語文化」の教科書の中では文学作品が扱われていますので、文学作品を入試問題の素材に使用することはあり得ます。人文系の学部などで、問題文の素材を実用的文章、論理的文章に変えるなど、出題傾向を無理にこれまでと変える必要はないと思います。
 

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神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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