働き方という視点で学びを考える

将来は海外で働くか?日本で働くか?

 ――GAFA(Google, Apple, Facebook,Amazonなどの巨大IT企業)の台頭からも分かるように、産業はもの作りからICTへと急速に移行している。これまでなかった市場を見つけ、ICT技術を用いて課題を解決することにより、巨額の利益を生む世界的な企業が生まれている。
 
村上先生:研究者もビジネスパーソンも海外で働く方が、待遇面から考えると働きやすい。与えられる権限も大きいのではないか。その際、求められるのは論理的思考、主体性、リーダーシップ等だ。対して、このような人材は日本企業では働きにくい、活躍しにくい環境にあったと言え、この改善は望まれるところである。
 
金丸先生:これからは一口に国際人といっても、グローバル人材(世界全体を見る人)とインターナショナル人材(日本から他国を見る人)の違いを意識する必要があるかもしれない。世界で活躍できる人物になりたいのか、日本で必要とされる人物になりたいのか。ただし、後者が50年後まで生き残れるかどうかは大いに疑問が残る。
 

高校生へのメッセージ

村上先生:できる人については、国内はもちろん、海外の大学や環境を見るなど、まず自由にやってみて欲しい。それが難しい人は、中学や高校で基本的な知識を身につけると効率が良い。知識を習得して人脈を広げていくと選択肢が広がるので、その後に型を外す、いわば守破離の精神で行くことを意識したらどうだろうか。
 
金丸先生:留学が難しい現状を考えると、今できる範囲で地に足のついた進路選択をして欲しい。ただし、将来を見据えてグローバル、インターナショナル、ドメスティック(国内)の視点の違いを意識しておくことが重要だと思う。

 

 

大阪大学全学教育推進機構
教育学習支援部
教授 村上 正行 先生
1997年京都大学総合人間学部卒業、1999年同大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了、2002年同大学大学院情報学研究科知能情報学専攻博士課程指導認定退学。博士(情報学)(2005年9月)。2002年4月より京都外国語大学外国語学部講師、マルチメディア教育研究センター講師、准教授、教授などを経て、2019年4月より現職。専門は教育工学・大学教育学。大阪府立天王寺高等学校出身。

 

 

京都大学国際高等教育院
准教授 金丸 敏幸 先生
京都大学博士(人間・環境学)。専門は、外国語教育(英語・日本語)、理論言語学(認知言語学・コーパス言語学)。コーパスやICTを活用した言語研究や言語教育に関する教育研究に従事。2015年度に「国際言語実践教育システム(GORILLA)」を開発、翌2016年度より京都大学の全学共通科目英語において、統一シラバスの下、GORILLAによるe-Learningを活用したカリキュラムの実施運営に携わる。大分県立大分上野丘高校出身。

 

 

留学の本質

 SGUに認定された本学において、新型コロナウイルスの猛威は予想以上の影響をもたらした。すべての留学プログラムは中止もしくはオンライン実施となり、カリキュラムの見直しを余儀なくされることとなった。現在、外務省は、ほとんどの国を感染症危険レベル2「不要不急の渡航は止めてください」以上とし、学生の主な留学先である米国やヨーロッパは、レベル3「渡航中止勧告」とされ、海を渡ることは事実上制限されている。留学への扉が閉ざされてしまったこの機会にあらためて、留学の本質とは何か、またその代替可能な方法について私見を述べてみたい。
 「トビタテ留学JAPAN !」のWEBサイトによると、以下6点を留学の定義としている。

 

①外から日本(外)を見る機会(視野の拡がり)
②知らないことを知り、知りたいことを知る機会(世界への関心)
③違う価値観に触れ、意味を知る機会(多様性受容)
④己のことや日本を知る、知りたいと思う機会(アイデンティティ)
⑤飛び込むことに自信を持つ機会(自己肯定感)
⑥逃げないで苦労する機会(ストレス耐性)

 

 さらに、「留学によって視野を広げ、自分に力をつけることでその後の人生の選択肢が大きく広がり」「これからの変化が激しく、予測が困難で、正解のない時代を生きて行くためには、自ら『未来を切り拓く力』が必要」と述べている。これらの力を獲得することが「留学の本質」だとすれば、どのような代替手段が考えられるだろうか。

 まず、この新型コロナウイルスによる「災害」そのものは、留学中に頻繁に遭遇する「予想外」の出来事と言える。留学希望者には、今後の人生でも起こりうる現実として逃げずに正面から向き合って欲しい。現実をいかにポジティブにとらえるかというマインドセットを修得することは、留学体験における価値の一つと言える。上記で言えば⑥のストレス耐性がこれにあてはまる。

 次に、来日している外国人との交流についてはどうだろうか。出入国在留管理庁によると、令和元年末日の中長期在留者数は262万人を超え、全国に外国人コミュニティが存在する。国内に滞在する外国人とのイベントやプログラムを通した交流も可能である。本学にも、中国人や韓国人をはじめとした外国人留学生が通学しており、彼ら彼女らとの様々な交流もその一つとしてあげられる。③「多様性の受容」や④「アイデンティティの認識」については、ハードルは高いかもしれないが、障がい者やLGBTなど性的マイノリティとのコミュニケーションや協働も、他者を知り自分を知るという貴重な経験をもたらしてくれるだろう。さらに、中高生の場合、主に海外の子女が通うインターナショナルスクールとの交流やイベントの共催も現実的な選択肢として考えられる。

 このように、留学で得られるスキルやマインドセットを獲得するための手段は、100%とはいかなくとも他にいくつか考えられる。ただし、学校間のプログラム提携や共催、実際に行われている交流プログラムなどの提示など、大人たちのサポートも、重要な要素となるだろう。グローバル戦略の見直しを求められている各大学では、ハイブリッドオンライン留学やCOIL(国際協働オンライン学習プログラム)をはじめ、様々な代替措置について検討/実施を進めている。しかし、大学が提供するプログラムに頼るだけではなく、個人として行動を起こすことによっても選択肢は広がり、自立的な経験を得ることはできるだろう。

 留学は、誰かにお膳立てされたパッケージツアーではない。また、現地を訪ね滞在すること自体がゴールでもない。その目的とは、従来と異なる環境下において、何に挑戦し、何を得るかの一点につきる。自分たちの手持ちのリソースで、今、何ができるかについて悩みぬくことが、留学に代わる方法を実践する第一歩と言える。「悩み」は人を成長させてくれる「ギフト」だ。
法政大学 学務部学部事務課 佐藤 琢磨 氏

 

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