東京大、京都大の前期日程の合格者が発表され、2023年度入試も終盤を迎えています。これからは国公立大学の中・後期日程発表、大手私立大の追加合格者発表などが続きます。受験生にとってはまだまだチャンスが残されていますが、それとは逆に大学は薄氷を踏む思いで入学者の手続き状況を見守っていることでしょう。そんなタイミングで、まだ早いかも知れませんが、そろそろ次の入試(2024年度入試)のことを考えておく時期に来ています。

 

 

2024年度入試は新課程入試の前年入試に当たる

 国公立大学の前期日程の合格者が発表され、あとは後期日程と公立大学の中期日程の合格発表と続きますが、欠員補充等の二次募集を除き、2023年度入試もほぼ終盤です。私立大の一般選抜も志願者数が多い大学のランキングで近畿大と千葉工業大の不動の2トップがほぼ確定しています。2023年度入試の終わりも見えてきましたが、都市部の大規模私立大の追加合格の影響による、追加合格の連鎖がどれぐらいの規模で収まるかなど、まだまだ動きがある時期です。

 そのタイミングではやや早いのですが、今の高校2年生が受験する2024年度入試のことを考えておくことも必要な時期になってきました。2024年度入試の最大の特徴は、翌年2025年度入試の前年に当たるということです。ご存じのように、今の高校1年生が受験する2025年度入試は高校の学習指導要領が改訂されてから初めての入試に当たります。いわゆる新課程入試です。

 

これまでの新課程入試初年度では一部に混乱も

 1990年代に入ってから、新課程入試は3回行われています。1997年、2006年、2015年ですが、2015年度入試は、数学と理科のみが先行実施されていますので、正確には2016年度入試も数学・理科以外の教科が新課程入試となりますが、ここでは2015年度入試に含めています。

 各回ともそれぞれに特徴がありましたが、1997年は大学入試センター試験で旧課程生用の科目の平均点が、特に旧数学Ⅱで低くなり、新課程生と旧課程生との得点差が開き、得点調整も行われなかったことから、公平性の観点から社会問題化しました。2006年は、理科の物理、化学、生物、地学の2単位科目が理科総合A、理科総合Bに編成されて初年度の入試でしたが、それ以上にセンター試験へのリスニングの導入初年度で実施や機器操作に不慣れなことによる混乱が一部に見られました。2015年は、センター試験で理科で基礎を付した科目(物理基礎、化学基礎など)が出題されるなど、受験生にとって理系科目の負担が重くなったと言われた年でしたが、大きな混乱は見られませんでした。

 

新課程入試の前年は、現役生が安全志向の傾向

 制度の変わり目は、受験生だけはなく入試を実施する大学側も不慣れな点があるため、例年に比べるとオペレーションが不安定になることは否めません。ただ、敢えて言えば、大学側も受験生が普段の力を発揮できるよう、万全の準備で臨んでいます。決して雑な準備をしている訳ではありません。ただ、それでも極度の緊張感から、現場でヒューマンエラーが起きてしまうのが現実なのです。

 閑話休題、こうした制度の変わり目への不安から、新課程入試の前年入試を受験する受験生は手堅く受験する、いわゆる安全志向となる傾向があります。特にセンター試験へのリスニング導入前年の2005年度入試ではかなり手堅い受験行動が見られました。具体的には中堅の私立大学の志願者数が増加して難化したり、総合型選抜・学校推薦型選抜などの年内入試の志願者数が増加したりします。早く手堅く安全に入試を終わらせたい受験生の気持ちはよく理解できます。ただ、教科・科目などにそれほど大きな変更が無い場合は、極端な安全志向とはならない年度もあります。

 では、2025年度入試はどうかと考えると、リスニング導入ほどのインパクトではありませんが、大学入学共通テストでの教科「情報」の必受験は大きな影響があると思われます。また、今の高校2年生以上の学年にとって、地理総合、歴史総合、公共などは未知の科目です。文系生でも数学Cが出題範囲になることも心理的な負担感があるでしょう。こうして見ていくと現役生が安全志向となり、年内入試を意識するケースが多くなることが予想されます。

 もっとも、初年度は旧課程生用の試験問題が用意される上に、文系生に数学Cが課されると言っても「ベクトル」だけが対象ですので、今と変わらないことや大学入試センターのHPで公開されている旧課程生用「情報」も試作問題を見るとボーナスポイントにできそうな雰囲気が漂っているのも事実です。そのため、難関大へのこだわりが強い受験生は旧課程生であってもむしろチャンスである可能性もあります。ただし、この辺りはあくまでも予想の域をでません。

 

受験生だけではなく、大学も年内入試志向?

 2024年度入試では、受験生が年内入試志向になる可能性を述べましたが、実はかなり多くの私立大も年内入試で入学者を確保しようと考えていると見られます。言わば、大学の年内入試志向です。

 特にここ数年、一般選抜で十分な入学者を確保できていない私立大が、合格者の入学手続き率が高い年内入試で入学者を確保することを目指すことが予想されます。これに加えて、中堅以上の私立大で年内入試の入学者を増やすことで一般選抜の合格者数を減らし、競争率等向上の施策としていることも推測できます。それと言うのも、螢雪時代特別編集「大学の真の実力」(旺文社ムック)は、国公私立大学の入学者の年内入試比率が確認できる貴重な情報誌ですが、首都圏の有力私大でこの情報誌に内訳が不掲載の大学が増えています。これは、入学者の年内入試比率の増加を見えなくするためではないかと思われます。

 このような背景から、2024年度入試では、多くの私立大が学校推薦型選抜、総合型選抜の合格者数を増やすことが予想されます(一部の私立大では劇的に)。受験生にとっては有り難い事ですが、年内入試は専願の場合が多いので、よく考えてから出願することが必要です。

 

 

 一方で、各大学が年内入試で入学者を多く取りたいと思ったとして、本当に人数を確保できるのかという問題があります。実際にどれぐらいの規模の受験生が年内入試を目指すのかを推計することは難しいですが、文科省の調査研究協力者会議の資料<図1>を見ると私立大の一般選抜での入学者数は全国で約21万人です。年内入試での入学者数を増やしたい私立大にとってはここがメインの対象となります。一方で大学入試センターの資料を見ると、大学入学共通テストの3教科型生(≒私立大志望者)は約10万人です<図2>。

 

 

 この10万人は一般選抜での受験を考えている層で年内入試への出願は考えないと仮定すると、先ほどの21万人-10万人=11万人が、私立大専願者で年内入試に誘導可能な層だと推定できます。この11万人を多いと見るか少ないと見るか、ここからは解釈の問題となりますが、そもそも一般選抜に臨む受験生ですので、一定の人気がある私立大を目指していると考えるのが妥当だと思います。そうした受験生のマインドを総合型選抜や学校推薦型選抜に向けてもらうためには、何をどうすれば良いのか。まさにVUCAの時代です。

 

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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