昨今はコロナ禍の影響もあり、大学進学者には強い地元志向があると言われています。ただ、地元に大学数が少ない場合もあるため、全国一律ではないと思われますし、実際に地域差は見られます。ここでは、昨年12月21日に公表された「2022年度学校基本調査(確定値)」を基に地元志向について考えます。

 

 

出身高校の所在地県別の入学者数

 学校基本調査には様々なデータがあり、非常に有益な情報を得ることができます。大学進学者の地元志向について確認する資料として、ここでは「出身高校の所在地県別 入学者数」を用います。このデータは「高等教育機関-学校調査-大学・大学院」の中に掲載されています。データは縦の列が「大学の所在地」、横の行が「出身高校の所在地」となっています。そして、表中の数字は入学者ですので、各都道府県の大学に進学した実際の人数です。このデータを用いて、各「出身高校の所在地」から各県の大学に入学した全人数を分母として、各「大学の所在地」の大学に入学した人数を分子とすれば、その都道府県の高校側から見た各「大学の所在地」への入学者比率が算出できます。

 この入学者比率を同じ都道府県の「大学の所在地」、「出身高校の所在地」で計算すると地元大学入学率が算出できます。これが地元志向を示す一応の指標と位置づけて、傾向等を見ていくこととします。ここで“一応”としているのは、千葉県、埼玉県、神奈川県から東京都所在の大学に進学することは、地元進学と言えますし、同様に奈良県、兵庫県、和歌山県等から大阪府・京都府所在の大学に進学することも地元進学と考えられます。宮城県、愛知県、広島県、福岡県とその近隣県でも同じことが言えます。データからは、それぞれの都道府県への流入・流出も算出できますが、ここでは上記の計算による数値を地元入学率として見ていきます。そういう意味では、「単純地元入学率」と言うことが正しいのかも知れません。

■「政府統計の総合窓口(e-Stat)」学校基本調査
https://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 

地元大学入学率1位は愛知県

 単純地元入学率を高い順に見ていくと、1位は愛知県です。実に愛知県所在の高校出身者で大学に進学した生徒の71.6%は愛知県所在の大学に入学しています<表1>。もちろん、この場合も岐阜県や三重県から愛知県所在の高校に通っていたケースもありますが、ここでは一先ず加味しません。2位は東京都、3位は北海道、4位福岡県、5位大阪府と大都市を有する都道府県が上位に来ます。学校基本調査のデータは、全体、国立大学、私立大学と分かれていますので、地元国立大学入学率と地元私立大学入学率を比べることも可能です。なお、全体で9位が石川県、10位が熊本県ですが、両県とも地元私立大学入学率が高いことも特徴の1つです。

 


 

 このように地元国立大学入学率と地元私立大学入学率を分けてみると全体の地元入学率とはやや異なる傾向が見られます<表2>。地元国立大学入学率が高いのは、1位北海道、2位が沖縄県です。いずれも60%を超えています。北海道、沖縄県で国立大学に入学した高校生の過半数は地元進学だったということになります。北海道、沖縄県ともに他地区への物理的な距離もあり、こうした傾向が見られるものと考えられます。また、新潟県、鹿児島県、茨城県、山梨県、徳島県、山口県、高知県、青森県は、多くが地元の国立大学に入学しており、各高校の先生方のご指導ぶりが推察されます。

 

 

地元私立大学入学率の1位も愛知県

 一方、地元私立大学入学率を見ると、当然ながら、多くの私立大学が立地している大都市を有する都道府県が上位となります。1位の愛知県は80.8%です。つまり、愛知県所在高校出身者で私立大学に入学した人の8割強は地元愛知県の私立大学を進学先として選んだと言うことになります。愛知県に立地する私立大学にとっては心強い数字です。ただ、首都圏や近畿圏の大規模な私立大学は、学外試験会場を名古屋市(愛知県)に設置している大学が多いのですが、この数字を見ると果たしてコスパが良いのかどうか、検討が必要なのかも知れません。同様のことは、福岡県や東京都にも言えることです。

 ただ、河合塾の大学入試情報サイトKei-Net「2023年度入試を振り返る」では、「コロナの収束が見えてきたことに加え、続く競争緩和の影響で難関大が合格しやすくなっていることなどから、今年は首都圏・近畿圏の大学を目指す志向が高まりました」と首都圏、近畿圏回帰の動きがあることを伝えています。多くの受験生は地元私立大学を進学先として選ぶと考えられますが、いずれ地元というだけでは選ばれない環境になりつつあると捉えることもできます。その点では、石川県の地元私立大学入学率を見ると、石川県所在の私立大学の健闘ぶりをうかがうことができます。

 

 

■河合塾の大学入試情報サイトKei-Net「2023年度入試を振り返る」
https://www.keinet.ne.jp/exam/past/review/private.html

 

東京都と大阪府・京都府の私立大学への入学率

 大都市部には多くの私立大学が立地していますので、近隣の他県から流入があります。そこで<表4>では、各都道府県から東京都と大阪府・京都府に所在している私立大学への入学率をまとめています。当然ながら、同じ経済圏・文化圏にある都道府県の比率が高くなっています。その中でも、大阪府・京都府所在の私立大学入学率が高い県として、鳥取県、香川県、島根県は隣接していませんが、入学率が高くなっています。

 

 

 ところで、地元私立大学以外で東京都あるいは大阪府・京都府のどちらに所在する私立大学を選ぶかという観点で見ると、単純に東西で分けれる訳ではありません。例えば、九州の各県はいずれも東京都所在の私立大学に入学する率が、大阪府・京都府所在私立大学に入学する率よりも高くなっています。福岡県ではほぼ均衡していますが、やや東京都が上回ります。

 同様の視点で、四国・中国地方は、大阪府・京都府所在私立大学への入学率が東京都所在私立大学を上回ります。地理的に東西の中央に当たる、愛知県、岐阜県は双方への入学率が拮抗しています。北陸3県でも、富山県は東京都所在私立大学16%、大阪府・京都府所在私立大学14%ですが、石川県は東京都所在私立大学10%、大阪府・京都府所在私立大学15%、福井県は東京都所在私立大学10%、大阪府・京都府所在私立大学29%とやや近畿圏寄りです。ただ、北陸新幹線開業が2023年度末ですので、福井県は今後、傾向が変わることがあるかも知れません。

 

 

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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