昨年12月20日、文部科学省が令和5年度学校基本統計(学校基本調査の結果)確定値を公表しました。大学(学部)進学率(過年度卒を含む)が57.7%となり、過去最高となるなどトピックも多いのですが、ここでは公表された数値を使って、国公立大学を目指す受験生のうち、実際に国公立大学に入学できた受験生の割合について考えます。国公立大学合格の最初の関門、大学入学共通テストも実施されましたが、私立大学の約半数が入学定員未充足(定員割れ)となる中、国公立大学も入りやすくなっていくのでしょうか。

 

出身高校の所在地県別にみた国立大学入学者

学校基本調査には多くの資料があります。その中の「高等教育機関」に関する集計で、「学校調査 学校調査票(大学・大学院)」の分類の中に「表番号16 出身高校の所在地県別入学者数」という集計資料があります。「高等教育機関」の資料ですので、大学側から見た集計ということになります。表は縦軸に大学の所在地(都道府県)、横軸に大学入学者の出身高校の所在地(都道府県)がプロットされています。これにより、どこの都道府県の高校から、どこの都道府県の大学に入学しているかという人数が分かります。

この表は複数パターンあり、全体数となる「計」、国立大学の入学者を示す「国立」、私立大学入学者を示す「私立」、さらに「計」のうちの男子数を示す「計のうち男子」と4つの表があります。そのため、「計」から「国立」と「私立」を引くと、公立大学(と想定される)の入学者数が算出できます。また、「計」から「計のうち男子」を引くことで、全体の女子数が算出できます。ただ、この表からだけでは、国立大学の男子・女子別、私立大学の男子・女子別などの内訳を計算することはできません。

それでも、都道府県別の国立大学、公立大学、私立大学の入学者数や自県への入学者数などが計算できます。ここでは各都道府県別の国立大学の入学者比率、公立大学の入学者比率、私立大学の入学者比率に加えて、自県の国公立大学への入学者比率を計算、比較しています。なお、ここで言う入学者比率は、各都道府県から大学に入学した全体人数を分母として計算した大学入学者に占める割合という意味です。各都道府県の受験生の大学合格率を示すものではなく、各都道府県で大学に入学した人のうち、国立大学、公立大学、私立大学に入学した人数の比率(%)を示しているに過ぎません。それでも地域特性などをそれなりに見ることができます。

文部科学省 学校基本調査-令和5年度 結果の概要-
文部科学省参照元ページ

国立大学入学者の比率が高いのは秋田県、公立大学は島根県

学校基本調査によると2023年度の大学入学者は全体で63万2,902人です。そのうち、国立大学の入学者は9万8,757人ですので、大学入学者に占める国立大学入学者の割合は15.6%です。私立大学の入学者は49万8,885人ですので、大学入学者に占める私立大学入学者の割合は78.8%となります。これらの数字から公立大学入学者の割合は5.6%になります。これらの値は全体平均値と考えることもできますので、大学入学者のうち国公立大学に入学できた人の割合は21.2%と全体の約2割であることが分かります。

首都圏はやや例外として、伝統的な進学校では、学校全体で国公立大学進学を目指した進学指導が行われていることが多いのですが、マクロ的に見た場合には、かなりハードルの高い目標のようにも見えます。ただ、そこは各学校の事情によると思います。当該都道府県のトップ15%レベルの生徒が集まっている学校であれば、全員が国立大学進学を目指すという目標は妥当な目標と言えるからです。

さて、<表1>は各都道府県別に国公私立大学への入学者比率を数字が高い順に並び替えたトップ20のリストです。国立大学入学者の比率が最も高いのは秋田県、公立大学は島根県となりました。前述の全体平均値から見ると非常に高い率であることが分かります。地域では東北、九州、中四国、北陸の各県が目立ちます。公立大学入学者の比率が高い県は、近年複数の公立大学が設置されたり、中には私立大学が公立大学化されたりした県が見られます。1つの県に国立大学と公立大学が1校ずつ設置されている県なども目立ちます。

また、私立大学への入学者比率が高い都府県は、大都市および大都市部近郊の地域が並びます。自宅から通学可能な範囲に受験生から人気のある私立大学が多く設置されている、都市部の特徴がよく現れています。

国公立大学入学者の比率上位は島根県、秋田県、地元率は北海道と沖縄県

国立大学と公立大学を合計して国公立大学への入学者比率を見た表が<表2>です。各県の顔ぶれはあまり変わりませんが、トップの島根県は大学入学者の約半数が国公立大学入学者ということになります。僅差で2位の秋田県も同様です。国公立大学入学者比率が40%を超える県は、国公立大学合格に対する地域社会の期待も相当高いと思われますので、これらの県にある進学校の先生方にかかるプレッシャーはかなり大きなものがあると推察できます(もちろん、本当に大変なのは当事者である生徒ですが)。

<表3>は、各都道府県で国公立大学に入学した受験生のうち、高校所在地と同じ都道府県(自県)に所在する国公立大学への入学者比率が高い順に並び替えたものです。各地域によって設置されている大学数など条件が異なりますが、トップは北海道、僅かな差で沖縄県が続いています。なお、ここでは出身高校所在地にある大学を自県として扱っていますが、居住地域によっては自県と隣接する他県の方が通学しやすいケースもありますので、必ずしも地元への入学率とは言い切れませんが、ここでは地元国公立大学への入学者率とほぼ同じ意味合いで用いています。ところで、業界の方はよくご存じだと思いますが、北海道と沖縄県には生徒数の多い通信制高校があります。それぞれ全国にキャンパスがありますが、学校基本調査では本校のある北海道と沖縄県を大学入学者の出身高校所在地としてカウントされていると思われます。それを考えると実際の地元入学率はもっと高くなるのかも知れません。

また、表では国公立大学への入学者率は高くはないものの、自県国公立大学への入学率が高い都県が見られます。東京都、山梨県、群馬県、福岡県、愛知県などですが、特に東京都の数値差が大きく目立ちます。これらの比率は計算式が異なりますので、単純に比較することは正しい比較ではありませんが、東京都に所在する国公立大学の入学者は、特定の受験者層が多くを占めているようにも推測できます。

なお、2013年度学校基本調査の結果で、国公立大学への入学者率を計算してみたところ、全体では21.3%となり、今回とほとんど同じです。入学者率が高い県も長崎県48.4%、島根県46.8%、岩手県45.5%、鳥取県44.8%、大分県43.3%となり、今回とほとんど同じ顔ぶれでした。県の中には公立大学の設置や県内の私立大学の公立大学化を行ったところもあり(長野県、山口県など)、国公立大学への入学者率はアップしています。劇的とまでは言えませんが、ある程度の政策的な効果があったと言っても良いでしょう。

今後、国立大学は例外(大学・高専機能強化支援事業による定員増等)を除いて、入学定員はほぼ変わりませんが、公立大学の入学定員は、新設大学や新増設学部などにより増加すると予想されます。受験人口の減少が進めば国公立大学への入学者率は計算上ではアップするはずですが、10年前と比較しても全体では大きな変化が見られないということは、もしかすると国公立大学への進学を目指すコアの層は、今後も質量ともに変わらないのかも知れません。

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
詳細プロフィールはこちら