2025年度に全学部改組を実施する千葉商科大学。現在の5学部7学科体制を、4学部6学科体制へと変更する。目的のひとつが、同大学で長年にわたり行われてきた実学教育のアップデートだ。より複雑化する社会課題に対応するため、未来志向の学びを学生たちに提供していく。
改組によって新設される学部が「総合政策学部」。その目的やカリキュラムの特色などを、現・政策情報学部の戸川和成先生に伺った。
求められる「公共」の視点
経済学科、政策情報学科の2学科から成る総合政策学部。各学科には3つのコースが用意されており、政策立案やデータ分析、メディア表現などの専門分野を磨いていく。
学部全体でめざしているのは、「公共」の視点を持ち、人々に寄り添い共感されるための情報発信や課題解決に挑戦する人材の育成だ。公共の視点の重要性について、戸川先生は次のように語る。
「現実社会で起こる事案は複雑化しており、行政の手が行き届かないという問題もあります。いわゆるスキマ事案をきっかけに生じる問題ですが、これをどのようにいち早く、どのように対処すべきかを考えた時にこそ、市民と一緒に政策を考えることがますます重要になります。行政も市民に寄り添い共感が得られる政策を実施していく必要があるでしょう。そこで求められるのが、公共の視点を持って社会をまなざし、課題発見や解決ができる人材です。」
公共の視点を育むため、理論と実践を組み合わせた教育に力を入れるという。たとえば政策情報学科で実施される、新たな「政策デザイン実践」の授業。学生が地域に足を運んでフィールドワークなどを行い、学外の人々とも協力して課題解決にあたる。
「スキマ事案は、地域にでかけてみなければ見つかりません。しかし、ただまち歩きをするだけでは問題に気づけないため、注目してほしい問題をチェックできるよう事前に点検シートを渡して歩く予定です。教室に戻ってきたあとは、自分が住んでいた地域と比較して感じたことを発表してもらいます。するとこれまでは無関係だと思っていた地域の現状を、自分事としてとらえられるようになるでしょう。さらにグループワークで課題を抽出し、すでに学んだ理論と組み合わせながら原因となる仮説を立てます。最後は仮説に基づいて検証を行い、その結果を人々に発信。共感が得られる政策に必要な戦略を練り続ける経験をもとにして、公共の視点を磨いてもらいます」
課題を解決する「共創」
「政策デザイン実践」は専門分野の異なる3名の教員が担当。多様な専門家、学生たち、そして地域で課題解決に取り組む人々が力を合わせ、複雑化した社会課題に立ち向かっていく。異なる立場や知見を組み合わせ、これまでにない発想で新たなまちづくりの戦略を生み出す「共創」は、社会をよりよい方向へと導くために欠かせない。
改組に先駆けて現・政策情報学科で行われた共創による社会課題解決事例が、「防災かるた」の制作だ。
「防災かるたは、災害に強いまちを作る装置のひとつです。様々な地域に応用できれば、老若男女より多くの人に、地域に、いくらでもアレンジが可能です。人々の防災意識を高めるために何ができるかを学生が考え、子どもから高齢者まで遊べるかるたを作りました。かるたには防災に関する知識を組み込み、人々が遊びながら自然と災害対策を考えられるようにしています。」
防災かるたは、まちづくりや政治学を専門にする戸川ゼミと、グラフィックデザインを専門とする吉羽ゼミが千葉県で市民活動を展開する一般社団法人鎌ケ谷マネジメントラボと連携して作成した。
「戸川ゼミでは人々の防災意識を調査したり、ヒアリングで課題を分析したりすることまではできますが、それをかるたという形で人々に伝える技術は持っていません。そこでデザインの力がある吉羽ゼミの学生たちと協働し、絵札や読み札などを作ってもらいました。学生たちと地域の共創があったからこそ、課題解決の装置を社会に実装するための一歩を踏み出せたのです。」
専門性の育成と広い視野の両立
改組後の同大学では基盤教育にも力を入れる。1年生は学部や学科にとらわれず授業を選択し、幅広い教養を修得。専門教育でも、まず各学科やコースの基礎を学び、その後、所属コースを選び、より専門的な内容を身につける。最初から分野を絞りすぎないことで、総合政策学部の学びがさらに深まるという。
「課題を解決するとき、求められる専門分野はひとつではありません。たとえば災害復興を考えるときは、工学的問題(津波・堤防・がれきの撤去等の復旧)、社会学的問題(孤独・絆)、経済学的問題(雇用・社会保障)、政治学的問題(都市政策、一票の格差)など。ハードな面とソフトな面を合わせて、さまざまな専門家が協力しなければ手が届かない部分が必ず出てきます。だからこそ幅広い分野の基礎をゆっくりと学べる環境が重要です。総合政策学部では、専門性を高めつつ、別の視点を柔軟に取り入れながら課題に対処できる学生を育てていきます。」
分野にとらわれない学びと体系的な学びを両立するために、「ユニット」という仕組みも導入する。公共政策など特定のテーマを起点に、関連科目を組み合わせたものがユニットだ。ユニットを履修するうちに学生たちは各科目の繋がりに気づき、複雑化した社会問題の解決策を考えやすくなる。
「さまざまなユニットに何があるのかを探検するのが1年生、ユニットを利用してやりたいことにトライするのが2年生。トライしたものをさらに深めて、人々に寄り添う政策実現をめざすのが3年生です。4年生は学んだ集大成を卒業論文にまとめたり、社会に実装できる形にデザインしたりします。学科やコースを横断した学びも大歓迎です。課題に対処するなかで必要性を感じた分野を、適宜履修してもらえればと思います。」
想定される卒業後の進路は多岐にわたる。メディアを駆使して地域おこしをする人、他者の意図に気づく広い視野を持った公務員、データを活用できるビジネスリーダーなど、活躍の場は広い。大学時代に身につけた公共の視点や、他者と共創して社会課題に立ち向かう力は、卒業生の大きな武器となるだろう。だからこそ社会や人に関心を持つ多くの学生とともに学びたいと、戸川先生は語った。
「ひとりでは難しいけれど、誰かと一緒に考えたい、人に寄り添いたい、共感を得られる未来を作りたい、などの思いを抱いている人にぜひ来ていただきたいです。そのために自分に何ができるか、大学での4年間で探してみましょう」
2025年度より始まる総合政策学部での新たな教育。公共政策の理論と実践を組み合わせた学びをこれまで以上に充実させ、広い視野と高い専門性を持つ学生を輩出していく。発想力を鍛えるメディア系科目と企画力を養う実践科目群を組み合わせた新たな総合政策学部の教育プログラムは、働く現場に役立つ実践力を磨きたい高校生には魅力的ではないだろうか。興味を抱いた方は、千葉商科大学のホームページやオープンキャンパスなどをチェックしてみてはいかがだろうか。