COC+R(大学による地方創生人材教育プログラム構築事業)の全国シンポジウムが、2024年2月3日(土)、信州大学長野(工学)キャンパスにて開催されました。5年を一区切りとして行われているこの事業は4年を終え、残すところあと1年。このシンポジウムには、選定事業それぞれの学生も登壇し、これまでの教育プログラムの成果と課題を報告しました。境界を越えた学びの連繋の先に見えてくるものは何か、そしてこれからの向けた取組について考察と議論が行われました。

 

地元就職という出口戦略の進み方

 

会場となったのは、信州大学長野(工学)キャンパス。130人以上の参加者が集まりました。まずは、信州大学の中村宗一郎学長の開会あいさつからスタート。この会議が、テーマの如く「境界を越えた」共有の場となり、豊かな未来へ繋げるために広域での共創、産学官の連繋は必須であること、人が変わり社会が変わり、大学も率先して変わることの重要さを述べました。

 

次に来賓として文部科学省総合教育政策局生涯学習推進課長・石橋晶氏が挨拶に。COC事業からの歴史や「R」が付いた意味を再びひもときながら、境界を越えて学びで繋がるテーマを踏まえた学生の実際の声を聞くのが楽しみであると結びました。

 

そして今回のシンポジウムの趣旨について信州大学・矢野俊介特任教授が説明しました。地元就職という出口に向けた因果モデルを作成してきましたが、今回はプログラムの成果と課題を共有し「地元就職数を増やすために地方大学が取り組むべきもの」という因子をつまびらかにしていく旨を話しました。さらに、パネルディスカッションのパネラーに学生も交え、より有意義な議論が期待できること、今後の連繋についての検討を進めることも語り、境界を越える意義に結び付けていく流れを参加者に伝えました。

 

 

基調講演──世界への入口となる島への留学、そしてワクワクする大学にするためには

 

今年の基調講演は、一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォームの理事・会長の水谷智之氏。島根県海士町にある県立隠岐島前高校の経営補佐官を務めています。人口減で廃校寸前だった同高校へ都会や海外からの「留学生」を呼び込むことで、1学年60人の定員に2.7倍の志望者を集めるまでに持っていった経緯を報告。島をまるごと大学のような探究学習の場にし、外の若者に選ばれる存在へと変えていきました。

また、高大連携の在り方について、大学の魅力を高校生に伝えワクワク感を育てること、大学から他大学、企業、行政など横への広がりを図ることの大切さを説きました。「地域みらい留学」の全国への広がり、現場での経験や実績に裏打ちされた、とても説得力の高い講演でした。

 

 

パネルディスカッション──学生視点で語る就職観の変化、そして「学びの連繋」

 

パネルディスカッションは2部構成で行われました。

その1は、信州大学の末冨雅之特任教授をファシリテーターに、COC+R事業に実際に参加した4大学の学生たちがパネラーとなりました。それぞれが、地元就職について入学前・受講前・受講後・現在の段階での意向をグラフ化して発表。なぜそうなのか、どういう変化があったか、これからはどう考えるか、意識の変化を生の声で説明しました。そしてその気付きの中から影響を与えた因子を抽出し、末冨氏がコメントを加え、COC+Rの成果についての考察を行いました。

 

その2は、信州大学の山本美樹夫特任教授がファシリテーターとなり、民間でエリアコーディネーションなどを行っている2人と大学でCOC+Rを推進している2教授によるディスカッション。地元の小中学校から大学までの縦の繫がりと、大学から他地方や官民へ広がる横の繫がりについてそれぞれの持論を展開しました。さらに、高校生を地元大学へどう取り込むか、大人たちがどういう連繋をするか、地方ならではの仕事状況と成長速度との関係なども実例を交えて解説。それぞれが考える「境界を越える」ことについて語りました。

 

 

ENGINEプログラムはどのような効果を上げているか

 

続いてCOC+R事業報告を、信州大学キャリア教育・サポートセンターの西尾尚子助教が行いました。サンプルとしたのは、信州大学が幹事校となり3大学の連繋事業として行っている「ENGINEプログラム」。これについての学生アンケートを解析し、地域就職率をどう上げるか、因果モデルの因子を抽出しました。企業(機会)・企業(認知)・就職タイミングなど6つの因子が明らかになり、企業の認知度・魅力の向上と相関性が高いことが分かりました。地域の魅力を向上させるには企業価値や革新性、SDGsなどの地域貢献が重要なファクターであること、それらによって学生の地元就職意識が高まることが明らかになっています。

就職意識は、自己成長の機会が得られること・企業に社会的価値があること・地方生活の豊かさが助長していて、それはENGINEプログラムが効果的に働いていることが数値として浮かび上がりました。

 

最後に、閉会の挨拶を信州大学の林靖人副学長が述べました。今回のテーマである「境界」は「壁」という言葉に言い換えることができ、それを越えるにはエネルギーが必要。しかしその先には見たことのない世界があるはず。手を繋ぐ意味の「連繋」をして、価値観を共有して、乗り越えていくことが大切。むやみに定住人口を増やすよりも、地域と繫がり愛を持った人を増やすこと、その場をCOC+Rが提供する。学びで繋がり大学のワクワク感をつくることに最後の1年奮起していきたい、と結びました。

 

COC+Rも残すところ1年となりました。出口の先にある事業の自走化を通じ、地域連携、そして地方創生のゴールに向け、関係者それぞれの想いと覚悟が新たになったことでしょう。

 

シンポジウムの動画や事業のレポートなど、COC+R事業公式サイトで確認できます。
COC+R公式サイト

 

 

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