海外へ留学生を送り出す動きが加速している。2023年4月に実施された第6回教育未来創造会議では、2033年までの10年間で海外留学派遣者数を50万人にすることが国の目標となった。
こうした背景もあり、留学に関心を持っている家庭も多いだろう。しかし避けては通れないのが、留学資金の準備。実際はいくらお金がかかるのか、奨学金はどの程度頼りにできるのかなど、疑問は尽きない。
留学に使える奨学金のひとつが、日本学生支援機構(JASSO)による海外留学支援制度。全国の大学が支援を得るために申請しているなか、とくに注目に値するのが芝浦工業大学だ。留学が必須ではない理工系大学にもかかわらず、毎年多くのプログラムが採択されている。
なぜ留学に力を入れているのか、実際の支援状況はどうなっているのか、芝浦工業大学国際部国際プログラム推進課長の村田雄一さんにお話をうかがった。
理工系大学が留学を促進する理由
芝浦工業大学は2014年、私立理系大学で唯一「スーパーグローバル大学創成支援事業」に採択された。世界に通用する教育や人材育成をめざし、留学にも力を入れている。
「大学の国際化には以前から取り組んでいましたが、スーパーグローバル大学になってから一気に加速しました。目標のひとつが、全学部生が1度は留学を経験すること。学長のリーダーシップのもと環境を整え、2023年度は年間約1400名の学生が留学をしています。」
全員留学が目標ではあるが、必須にはしていない。それでも学生が内発的に留学を志せるよう、重要性を伝えているという。
「ダイバーシティのある環境でこれまでとは違う経験をすることは、大きな学びになります。また、理工系の研究は世界で行われているので、英語で情報を取り入れたり、技術的なコミュニケーションをとったりする経験も必要です。」
同大学の留学プログラムは、大きく3つに分けられる。語学研修、グローバルPBL、交換留学だ。
グローバルPBLでは海外の協定校と合同でグループワークを実施。芝浦工業大学の学生は2週間ほど海外の協定校を訪れ、現地での社会課題を深掘りする。
「英語を学ぶのではなく、英語を使って専門分野を応用する内容です。社会課題への解決策を、同世代との交流を通して学んでいきます。」
希望者が留学しやすい環境を。奨学金による支援
留学プログラムの多くはJASSOの海外留学支援制度にも申請し、採択されている。
新たに支援を希望するプログラムが対象の「協定派遣・学生交流創成タイプ(タイプA)」には、2024年度に474プログラム9614人が採択されており、そのうち4プログラム230人が芝浦工業大学だ。
また、前年度からの継続支援を希望するプログラムが対象の「協定派遣・学生交流推進タイプ(タイプB)」を見ると、2024年度の採択数は543プログラム7736人。芝浦工業大学には8プログラム457人が割り当てられており、全国的に見ても多いといえる。
海外留学支援制度では、期間や渡航先によって異なるものの、留学中は毎月6~10万円が支給される。さらに一定の派遣期間を満たせば13万円、一定の家計基準を満たした場合は16万円の渡航費も支給。保護者からすると大きな金額に思えるが、現場ではまた違った見解を抱いているようだ。
「奨学金にどこまで期待するかで、満足度は変わるはずです。すべてをまかなうのではなく費用の一部をサポートする、という想定ならば嬉しい金額だと思います。」
たとえば同大学の場合、「タイプA」のプログラムでアメリカに4週間の語学研修に参加する費用は110万程度。JASSOからは奨学金10万円が支給されるため、実質負担額は100万円ほどが想定される。同じく「タイプA」のマレーシアでの4週間の語学研修に参加する場合、費用は約50万円。JASSOからの奨学金は7万円で、最終的な負担額は43万円ほどとなる。
「タイプB」のグローバルPBLに約2週間参加した場合の費用も見てみよう。イギリスでのグローバルPBLは費用が約40万円かかり、JASSOからは8万円が支給される。マレーシアの場合は費用が約24万円、JASSOからの奨学金が7万円だ。
これらの奨学金は留学費用の一部として使えるが、注意点もある。原則としてプログラム実施期間中に学生の口座に振り込まれるため、留学前にはお金がもらえない。一度は費用を全額支払う必要があると、念頭に置いておこう。
同大学ではほかにもJASSOの要件にマッチしない学生に向けた大学独自の奨学金や、研究活動のための海外渡航費支援も用意している。
「スーパーグローバル大学としての取り組みを進めるなかで、徐々に支援の手を広げていきました。多くの学生の海外経験を促進できる補助が整ってきたと自負しています。」
学内でも国際化が進む
留学を希望する学生への支援も充実させている。海外留学生とのワークショップや、有料の英会話教室や英語プレゼン講座などの開講だ。英会話教室の費用は一年で10万円ほどかかるが、約100回の講座を学内で受けられる。
さらに英語で実施する授業も増やし、留学生の受け入れ環境を整備。2020年に立ち上げた工学部先進国際課程では、英語の授業だけで学位を取得できる。
また、システム理工学部では2017年より、1セメスター以上の留学を義務づけた国際プログラムを実施。海外で取得した単位は芝浦工業大学の単位としても認定されるため、長期留学と4年間での卒業を両立できる。
こうした取り組みの成果もあり、近年では留学への興味から芝浦工業大学を希望する受験生も増えてきたという。
豊洲GLC(グローバル・ラーニング・コモンズ)主催の国際交流イベント「ワールドトーク」が2023年6月15日(木)に豊洲キャンパス内カフェ「SIT Global Caffe empowered by Segafredo」で開催。イベントでは計7か国の留学生がプレゼンターとなり、自国の文化や留学情報を共有し、日本人学生と活発に交流。
「本学に留学のイメージを持っている受験生が少しずつ増えてきました。学生の語学力も高まっており、TOEICの平均値は毎年上がっています。今後は中長期留学の割合も増やしていきたいですが、学生さんは忙しいので2週間のプログラムに参加する時間を捻出するだけでも大変でしょう。だからこそ大学では多様なパターンのプログラムを展開していきます。」
留学によって得られる経験は、学生を大きく成長させる。これを実感してもらうためにも、芝浦工業大学では奨学金制度の充実や教育カリキュラムの整備をし、多くの学生が世界に一歩踏み出せるようにしてきた。
ただし円安や渡航費用の高騰などで厳しい状況も浮き彫りになっている。奨学金は留学費用の一部と考え、家庭でもある程度の額を用意しておくと安心だろう。