筑波大学、北海道大学、九州大学、東北大学、理化学研究所の研究グループは、ヒトが脳内でイメージ操作するときに、シータ波とアルファ波という異なる周波数の脳波リズムの位相差(注)が情報の振り分けを行っていることを、脳波データ解析及び数値シミュレーションを用いて発見した。

 ヒトは様々な状況下で多様な情報から必要な情報を柔軟に選択し、思考できる。これを作業記憶と呼び、この脳メカニズムを理解することは脳型コンピュータの実現に重要だ。そこで今回、その基礎研究として視覚と聴覚作業記憶に関わる脳メカニズムを検討した。これまで、作業記憶時に活動する脳部位間に様々な周波数の脳波リズムで同期するネットワークが存在するという報告はあったが、これらの脳波リズム間のメカニズムは不明だった。

 今回,視覚作業記憶課題(PCディスプレイ上の図形を使ったイメージ操作)と聴覚作業記憶課題(イヤホンを使用した暗算)を行った時の脳波を測定し、両課題時の脳波解析結果を比較検討した。

 その結果、両課題とも前頭のシータ波とアルファ波の位相が同期することが判明。しかも興味深いことに、視覚と聴覚作業記憶課題ではこのシータ波とアルファ波との間には位相差があることがわかった。さらに数理モデルの作成およびその数値シミュレーションによって、2つの作業記憶課題時における位相差は作業記憶課題時に重要な働きをしていることがわかった。

 これにより、脳内の情報処理は、これまで知られてきたような脳部位と脳波リズムの組み合わせで達成されるだけでなく、脳波リズムの位相差も情報を持ちうることを示し、情報処理の限界を広げる可能性を初めて示したものという。

(注)位相とは、波は周期的に振動を繰り返すが、1周期の間でどのタイミングにあるかを表す量。2つ以上の波ではその位相がぴったりそろうこともずれることもある。このずれを位相差と呼ぶ。

大学ジャーナルオンライン編集部

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