人間の体臭は「皮膚ガス」として知られ、皮膚表面から発せられるいくつかの揮発性化合物で構成されている。通常、周囲の人々にとって快適か不快かの問題として認識されることはあっても、健康に悪影響を与える可能性については研究されていない。

 しかし最近では、自身の体臭(皮膚ガス)が周囲の人々にくしゃみ、鼻水、咳、目のかゆみ・充血などアレルギーのような症状を引き起こすとSNS等を通じて訴える人が現れている。こうした症状は「People Allergic To Me(私に対するアレルギー)」(以下、PATM)と呼ばれ、PATM患者の多くは心理的不安を抱えていたり、仕事を辞めざるを得なくなる人もいるが、PATMの実態は不明であり、科学的・医学的に全く解明されていないという。

 そこで、東海大学理学部化学科の関根嘉香教授とAIREX株式会社の研究グループは、PATMを訴える患者20人の皮膚ガスをパッシブ・フラックス・サンプラーおよびガスクロマトグラフ/質量分析計を用いて測定・分析し、皮膚ガス組成の特徴を調べた。その結果、PATM群では共通の特徴として、非PATM群に比べてトルエンやキシレンなどの人工化学物質、メチルメルカプタンなどの硫黄化合物、不安効果を与えるヘキサナールのような成分が多く放散されていることを突き止めた。現時点でPATM群の皮膚ガス組成を説明するメカニズムの提示は困難だが、化学物質に対する代謝能や酸化ストレスが関与している可能性が示唆されるとしている。

 本研究成果は、PATMのにおい物質に関する世界初の原著論文として国際学術誌『Scientific Reports』(オンライン)に掲載され、PATMの原因究明の第一歩となった。PATMが未解明の疾病である可能性も含め、学際的なアプローチによるさらなる研究が必要である。

論文情報:【Scientific Reports】Human skin gas profile of individuals with the people allergic to me phenomenon

東海大学

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