産業技術総合研究所の研究グループは、浜松医科大学、名古屋工業大学、東京農業大学と共同でシオカラトンボが分泌する紫外線反射ワックスの主成分を同定。ワックスを化学合成し紫外線反射能と撥水性を実現した。

 地球上のさまざまな動物や植物は体表で紫外線を反射する。これは視覚によるコミュニケーションや紫外線からの防御に重要とされる。しかし、紫外線反射物質の化学組成や紫外線反射構造の産生に関わる遺伝子に関しては不明点が多かった。研究グループは今回、シオカラトンボの成熟オスが分泌する紫外線反射ワックスの研究に取り組んだ。

 その結果、主成分は3種類の極長鎖メチルケトンと4種類の極長鎖アルデヒドと判明。このような主成分のワックスは他の生物には見られず、シオカラトンボに特殊な組成であった。また、近縁種の分析によりワックスの成分と反射率はトンボの種や雌雄、腹部の領域によって異なっていた。日向で活動する種ほど紫外線反射率が大きい傾向があり、生息環境や行動との関連性が見られた。

 また、極長鎖メチルケトンを化学合成して再結晶化させると、トンボの体表面とよく似た微細構造が自己組織的に生じ、強い紫外線反射能や撥水性が再現された。さらに、解析によりワックス産生に強い相関のあるELOVL17遺伝子を半成熟オスの腹部背側で同定。この遺伝子は極長鎖脂肪酸の合成に関わる遺伝子ファミリーに属しており、紫外線反射ワックス合成を担う遺伝子の有力候補と考えられる。

 紫外線反射ワックスは将来的に生物由来の新素材として利用できる可能性がある。今後は、安定性や抗菌性などを含めたシオカラトンボの紫外線反射ワックスの生態学的特徴を詳細に調べるとしている。

論文情報:【eLife】Molecular basis of wax-based color change and UV reflection in dragonflies

東京農業大学

ベストティーチャーから学ぶ「実学主義」のもと、「生きる力」を育む

東京農業大学は、3キャンパスの6学部23学科、約1万3000人の学生を有する国内最大級の生物系総合大学です。1891年の創設以来、教育研究の理念である「実学主義」のもと、社会に貢献できる人材を育成。時代の要請に応え、生命、食料、健康、環境、資源、地域、グローバ[…]

浜松医科大学

良質な医療人を育成し、独創性のある研究成果を世界に発信し、地域医療を中核的に担う

浜松医科大学は、医学・看護学に関する基礎的知識・技術の習得はもちろんのこと、問題解決能力と自学自習の態度・習慣を身につけ、医療倫理を尊重して、人々の健康に貢献することを誇りとする医療人の育成をめざしています。医科大学の特性を生かした医学科と看護学科の学生が共に[…]

名古屋工業大学

「ものづくり・ひとづくり・未来づくり」人間性豊かな実践的工学エリートをめざす

歴史・文化・伝統を活かしながら個性輝く自立性に富む工科系国立大学です。幅広い分野をカバーする‘’工学の総合大学‘’の強みを生かした研究と、豊かな未来づくりを担う実践的工学人材の育成に力を注いでいます。工学分野の専門性を磨く高度工学教育課程(生命・応用化学科、物[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。