東京工業大学の梶谷孝特任准教授、福島孝典教授らの研究グループは、キラル分子(注)が単結晶のような規則構造をもつ液滴を自発的に形成、さらに構造秩序を崩さずに一方向に回転しながら流れる現象を発見した。今回の成果は物質構造科学研究所、理化学研究所、東北大学、株式会社JEOL RESONANCE、東京大学との共同研究によるもの。

 研究グループは、「トリフェニレンヘキサカルボン酸エステル」という物質にキラル側鎖を導入した誘導体を合成し、その相転移挙動と集合構造を調べた。この物質の中間相(気体・液体・固体の中間に存在する相)では、V字形や長方形を縦横に連続して組合せて作られる「ヘリンボーン構造」の二次元シートが積み重なり、あたかも単結晶のような三次元構造を形成していた。その規則構造形成能力は少なくとも数ミリメートルに及び、分子スケールでは「超」長距離の構造秩序が自発的に組み上がったとみなせるものだった。

 この液滴状物質は、基板を立てると下方向に流れるという流動性を示し、流れ落ちる過程でも、液滴中の構造規則性は全く損なわれなかった。詳細な検討により「固まろうとする性質」と「流れようとする性質」が絶妙なバランスを保っていることが判明。さらに、流れ落ちる際、液滴が一方向に回転、その回転方向はトリフェニレンに導入した側鎖のキラリティー(R体かS体か)で決まることも分かった。

 今回発見した物質は結晶、液晶、液体のいずれでもない常識を覆す物質で、分子のキラリティーと分子の巨視的集団運動の相関に関する新知見を与えるもの。今後はメカニズムの解明により、新しい分子集合体に関する物理化学の開拓や、高機能有機材料の革新が期待される。

(注)左手と右手のように、その鏡像と重ね合わすことができないキラリティー(掌性)という性質を持つ分子。

論文情報:【Nature Materials】Chiral crystal-like droplets displaying unidirectional rotational sliding

東京大学

明治10年設立。日本で最も長い歴史を持ち、日本の知の最先端を担う大学

東京大学は東京開成学校と東京医学校が1877(明治10)年に統合されて設立されました。設立以来、日本を代表する大学、東西文化融合の学術の拠点として、世界の中で独自の形で教育、研究を発展させてきました。その結果、多岐にわたる分野で多くの人材を輩出し、多くの研究成[…]

東京工業大学

時代を創る知を極め、技を磨き、高い志と和の心を持つ理工人を輩出し続ける理工大学の頂点

東京工業大学は産業の近代化が急務となっていた1881(明治14)年に東京職工学校として設立されました。設立以来、優秀な理工系人材と卓越した研究成果を創出し続け、現在も日本の理工系総合大学のトップにいます。東京工業大学は高度な専門性だけでなく、教養学を必修とする[…]

東北大学

イノベーションの源泉となる優れた研究成果を創出し、次世代を担う有為な人材を育成

東北大学は、開学以来の「研究第一主義」の伝統、「門戸開放」の理念及び「実学尊重」の精神を基に、豊かな教養と人間性を持ち、人間・社会や自然の事象に対して「科学する心」を持って知的探究を行うような行動力のある人材、国際的視野に立ち多様な分野で専門性を発揮して指導的[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。