京都大学の鈴木志穂氏(4年生)らの研究グループは、注意欠如・多動症(ADHD)の主な治療薬であるメチルフェニデートとアトモキセチンが、脳での働きや行動への影響についてそれぞれ異なることを見出した。
注意欠如・多動症(ADHD)は、不注意(集中できない)、多動性(じっとできない)、衝動性(我慢ができない)を特徴とする神経発達症。学童期の子どもの5%に見られるといわれ、その症状はしばしば大人になっても続く。一般的な治療薬は、脳の神経伝達物質の挙動に作用するとされるが、症状改善の仕組みなど詳細は分かっていない。近年は治療薬の長期使用に伴う影響にも関心が高まっている。
今回、ゼブラフィッシュを用いてADHD治療薬のメチルフェニデートとアトモキセチンについて脳での働きや行動への影響を比較する研究を行った。2種類のADHD治療薬をゼブラフィッシュに8日間投与し、新奇環境下での探索行動と脳の遺伝子発現の解析を行った。この行動の観察により不安の程度を評価できる。
その結果、メチルフェニデートはゼブラフィッシュの不安様行動を高めるのに対し、アトモキセチンは同行動を軽減することが分かった。
次に脳での影響(遺伝子発現)を調べたところ、各薬剤の投与で発現が変化した複数の遺伝子の中から、共通する遺伝子を同定できた。興味深いことに、これらの共通遺伝子は各薬剤に対して相反する挙動を示していた。さらに共通遺伝子の機能をデータベースで調べたところ、これらは脂質代謝に関わっていることが明らかになった。
今後はヒトの検体を用いた研究を併用し、将来的には各患者の特徴に応じて、最適なADHD治療薬の提案が可能な研究につなげるとしている。