関西医科大学の木田尚子助教らの研究グループは、慶應義塾大学、 広島大学と共同で、タバコ成分が子宮内膜の低酸素状態を招き、細胞死関連遺伝子を発現することを発見した。

 妊娠の成立には、卵巣機能・胚・子宮内膜の調和のとれた相互作用が必要となる。喫煙による妊娠への悪影響は胚や卵巣などについては研究されているが、子宮内膜への影響についての報告はほとんどない。月経周期において、子宮内膜の増殖と分化、つまり血管新生と脱落膜化は重要な機能を担う。そこで研究チームは、ヒト子宮内膜の血管新生、脱落膜化の機能に対する喫煙の影響について調べた。

 研究チームは、独自の方法により分離培養したヒト子宮内膜間質細胞と不死化ヒト子宮内膜間質細胞とにタバコ抽出液を添加した。また脱落膜化にはエストラジオール、酢酸メドロキシプロゲステロンを添加して12日間の培養を行った。

 その結果、タバコ成分が加えられた子宮内膜間質細胞において、正常酸素濃度であっても低酸素誘導因子 HIF-1(細胞内の低酸素時に活性化される転写因子)が活性化していることを発見した。また、低酸素状態に置かれた場合と比較して、タバコ成分を添加した場合細胞死に関連する遺伝子クラスターが多く発現することも分かった。脱落膜化に関しては、タバコ成分の濃度が低濃度では脱落膜化の促進、高濃度では抑制という、濃度によって異なる影響を示した。

 今回の研究は、経験的に知られてきた妊娠・出産に対する喫煙の悪影響を科学的に解明した点に意義があるとする。今後、ヒト子宮内膜におけるHIF遺伝子の作用をさらに解明できれば、着床障害のメカニズム解明や、新しい診断・治療法の開発につながることが期待される。

論文情報:【Antioxidants】Cigarette Smoke Extract Activates Hypoxia-Inducible Factors in aReactive Oxygen Species-Dependent Manner in Stroma Cells from Human Endometrium
【Reproductive medicine and biology】Exposure to cigarette smoke affects endometrial maturation including angiogenesis and decidualization

大学ジャーナルオンライン編集部

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