広島大学の乾雅祝教授、熊本大学の細川伸也教授らは液体ビスマス中の原子の振動を解析することで、液体状態であるにも関わらず固体のときの構造が一部残っていることを証明しました。
固体の中の原子や分子は、隣り合う原子・分子と結合をつくることで自由に動き回ることが無い決まった構造を持っています。通常は固体が融けて液体になると、この結合が切れてしまいます。ところがビスマスという金属は融解しても完全にばらばらになることはなく、一部の結合を残したまま集団運動をすることが分かっていました。さらに21世紀に入り、コンピュータシミュレーションを用いることでこうしたビスマスの集団運動の詳細が予測されていました。
今回の研究の目的はシミュレーションから予測された液体ビスマスの集団運動を、実験から観測することです。そのためには薄い膜状にした液体ビスマスに強力なX線を照射して、散乱されたX線を解析する必要がありました。この実験に用いられたのが兵庫県にあるSpring-8という巨大なX線発生装置です。また、グループが持つ液体ビスマスを薄い膜状に保持する技術も測定には不可欠でした。これにより、これまでシミュレーションから予測されていた集団運動を実験によって観測することに成功しました。
今回の結果は、原子や分子がばらばらになり動き回っているだけと考えられていた液体で、固体のときの結合をわずかに残した状態になっていることを示すものです。これはある種の固体における記憶を残している状態ということができます。融解した金属の原子間に働く力を制御すれば、固体の金属のナノ構造をデザインできることを実験から明らかにできたことを意味します。この成果が新しい物質の創成やナノテクノロジーなどに大きな影響を与えることが期待されます。