EBP(evidence-based practice:エビデンスに基づいた実践)とは、患者の病態と状況、好みや行動、最良の利用可能な研究成果(=エビデンス)を、臨床専門知識を用いて統合し、医療現場で意思決定することをいう(Haynes、R. B.、2002)。研究エビデンスを臨床実践に効果的に統合してより良い医療を提供することで、患者の健康状態や満足度の改善、および医療費削減も期待されるため、世界中でEBPへの関心が高まっているが、日本のとくに看護分野では、諸外国に比べEBPの普及が遅れている。
日本の看護現場でEBPの実装を推進するためには、看護管理者による戦略的リーダーシップが欠かせない。そこで、千葉大学、東海大学、慶應義塾大学、札幌医科大学、国際医療福祉大学、甲南女子大学、国立保健医療科学院らの研究チームは、アメリカで開発された臨床現場で研究成果を活用するための看護師長のリーダーシップを測定する尺度(Implementation Leadership Scale:ILS)の日本語版を開発し、その信頼性と妥当性を検証した。
これまでILSの日本語訳がなかったため、本研究ではまず、オリジナルのILSを翻訳後、臨床看護師に各項目の表現について確認してもらった。その上で、国内の大学病院に所属する看護管理者119名とスタッフ看護師2,858名を対象にWeb調査を行い、日本語版ILSとオリジナルのILSとが同じ概念でリーダーシップを評価できているかを統計的手法で検証した結果、看護管理者による自己評価とスタッフ看護師による他者評価の両方で同じ構造を確認することができた。
次に、過去の研究でEBP実装に関連すると示されている、EBPに関する学習・研究経験および取り組んだ経験と、日本語版ILS得点の関連性を調べたところ、いずれも経験ある看護管理者ほどILS得点が高くなる傾向を認め、先行研究を支持する結果が得られた。
以上により、今後、日本語版ILSを用いた調査研究を進めることで、EBP実装に向けた看護管理者のリーダーシップの実態解明とともに、リーダーシップを高めていくための手法の開発と検証、さらにはEBPを推進するリーダーの人材育成に貢献することが期待されるとしている。