東北大学 災害科学国際研究所の蝦名裕一准教授は、元和二年仙台地震に関する史料と、同地震で津波が発生したとする文献の精査を行い、元和二年七月二十八日の仙台地震で発生したとされる津波には史料的根拠がないことを明らかにした。

 これまで、複数の年表やデータベースに「元和二(1616)年に発生した仙台地震の際、宮城県沖などで津波が発生した」と記載されてきた。しかし、この津波の存在を決定的に論証する研究はない。

 そこで今回、通説の根拠を検証した。まず、寛政九(1797)年に著された『大槌古今代伝記』(現在の岩手県大槌地域の史料)に「元和二年十月二十八日」に津波が発生したという最も古い記述があるが、複数の史料を照合した結果、この津波は、実際には「慶長十六年十月二十八日(1611年12月2日)」に発生した「慶長奥州地震津波」で、発生年の誤記が判明した。

 後に、『宮城県海嘯誌』(1903年)が「元和二年、陸中において大津波が発生した」とし、『宮城県昭和震嘯誌』(1935年)は「元和二年七月二十八日に三陸地方で強震と大津波があった」と記載。この時点で、地震発生日が仙台地震と同一にされ、被害範囲が主に岩手県域を指す「陸中」から、宮城県も含むより広範な「三陸」へと書き換えられた。

 この内容が、地震学の基礎資料となる『増訂大日本地震史料』(1941年)に収録され、その後の歴史地震研究の中で、推定とはいえ震源や津波の規模の具体的な数値が付加されたことで、元和二年仙台地震で津波が本当に発生したかのようなイメージが流布したと考えられた。

 これにより、歴史資料に立ち返って歴史災害の実相を明らかにし、津波発生頻度の正確な推定など、今後の防災に生かすことが重要としている。

参考:【東北大学】「元和二年仙台地震で津波が発生した」根拠はなかった ―誤った通説が形成された過程も明らかに―(PDF)

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