2025年度入試も目前に近づき、模擬試験での志望動向にリアリティが感じられる時期になりました。河合塾の大学入試情報サイトKei-Netには「2025年度入試の概要」の特集記事があり、受験環境の変化や各大学の新設学部・学科や入試科目の変更などが説明されています。引き続き、理系学部の新設が多いようですが、理系生は進学に際して何を重視しているのでしょうか。

 

情報系・理工系学部の新設が増えているが人気は頭打ち?

 解説記事によると、来年、2025年度入試でも国公立大学で情報系学部の新設が目立ち、私立大学でも情報系学部の新設が多いことに加えて、女子大学や文系総合大学のようにこれまで理工系学部を持たなかった大学での理工系学部の新設が見られます。また、模擬試験の結果から見た志望動向では、国公立大学の人気は堅調で、中でも難関大志向が継続しています。入試科目の変更点や新増設大学等の一覧表を載せたサイトは他にもたくさんあるのですが、Kei-Net「2025年度入試の概要」のように、入試動向の予測を解説しているサイトは他にないためとても参考になります(参考1)。

 学部系統の人気では、今春入試に続き、外国語、国際関係の人気が国公立大、私立大ともに高くなっています。ただ、新増設が多い理系学部で、理学の人気は高いのですが、工学(応用化学など一部の系統は人気)や農学、情報(データサインエンスなど文理融合系の情報)の人気は昨年並みです。来年は18歳人口が増えることで大学志願者数も増えると見込まれていますので、昨年並みということは実質的には人気が下降していると考えられます。特に情報系の模試における志望者数は、難関国立大学でも頭打ちの状況にあり、私立大学もほぼ同様です。ただし、女子受験生だけはこれらの学部系統でも増加しています。

 新しい学部や学科を新設するのは、とりわけ私立大学にとっては大きなイベントで、学生募集にプラスの効果となることを期待しています。しかも、DX、GX系の学部増設は国策ですので、学内で相当な期待があると思いますが、どうやら多くの大学にとって厳しい結果になりそうなことが予想されます。かつては新設学部を設置すると志願者数が増えるなど一定の効果がありましたが、最近は一部の大学を除くと、志願者数の増加どころか入学定員の充足も難しいようです(参考2)。

参考1:【河合塾の大学入試情報サイト Kei-Net】2025年度入試の概要
https://www.keinet.ne.jp/exam/2025/overview/outline.html

参考2:【リクルート進学総研】私立大学等における新増設・改組の現状まとめ(入学定員の充足状況_前編)
https://souken.shingakunet.com/higher/2024/10/post-3445.html

文系生と理系生が進学先を検討する時に重視する項目の違い

 前回の当コラムで、文系生と理系生を比べると、理系生は学んでみたい分野を決める時期が早いと説明しましたが、今回は「進学先を検討する時、重視する項目」の違いについて見てみます。参考としたデータは前回と同様にリクルート進学総研「高校生の進路選択に関する調査(進学センサス)」です。

 調査では、進学先を検討する時に重視する項目が文系、理系別に集計されており、集計には大学進学者だけではなく、短期大学・専門学校進学者も含まれていますが、回答者の77%は大学進学者です。また、複数回答のため、回答の合計が100%を超えますが、傾向を見る上では非常に参考になります。

 掲載データをもとに、理系生の回答から文系生の回答を引いた数値を算出して表にしました<表>。この数字のプラスの値が大きいほど、理系生が文系生よりも、その項目を重視していると解釈できます。逆にマイナスの値が大きいほど文系生よりも重視しない項目ということになります。

 結果を見ると、文系生、理系生でプラスに差が大きかった上位3項目は、「学費が高くないこと」、「専門分野を深く学べること」、「学習設備や環境が整っていること」です。理系生はこうした項目に重きを置いて、大学選択をしていることになります。「学費」は私立大学の場合、理系学部の学費の方が文系学部よりも高いのはやむを得ませんが、やはり気にしていることが分かります。そのこととも関係しますが「設備環境」が学費に見合ったものでないと理系生の納得は得られない、つまり選ばれないということだと考えられます。「専門分野」へのこだわりは言わずもがなで、職業・資格に直接つながる学部系統もあることを考えれば当然のことだと思います。

 逆に理系生が文系生よりも重視していない項目は、「校風や雰囲気が良いこと」、「国際的なセンスが身につくこと」、「有名であること」です。「校風や雰囲気」は「学生生活が楽しめる」や「キャンパスがきれい」などと合わせて、明るく楽しいキャンパスライフを自大学の良さとして伝えたいところですが、理系生の多くは、それよりは学びの実質と設備などの環境を重んじているようです。この辺りは、文系大学が理工系学部を新設する際、受験生に発信する情報として意識しておきたいところです。

参考:【リクルート進学総研】進学センサス2022調査報告書
https://souken.shingakunet.com/research/2010/07/post-e53f.html

文系生も理系生も進学先を検討する時に重視する項目

 前項では理系生が文系生よりも重視している項目を確認しました。しかし、大切なことは文系理系で選択基準に差があるとしても、それぞれが最も重視していることは何かということです。集計結果を見ると当然ながら重視する1位は、文系理系で共通して「学びたい学部・学科・コースがあること」です。数値に多少の違いはありますが、文系理系ともに他のどの項目よりも圧倒的に高い比率となっています。2位も文理共通して「自分の興味や可能性が広げられること」です。ただ、ここで言う興味や可能性は、自己実現などの一般的な可能性等を指しているのではなく、「学びたい学部・学科・コース」の内容と関連していると考える方が良いでしょう。受験生は、その学部・学科・コースには、どのような科目があるのか、どのような授業が展開されているのか、実習やフィールドワークなどがある場合は、どこに出かけていくのか、そして、それは学部・学科・コースの学修とどのように関わるのか、などの情報から入学後の自分の姿を想像して、興味や可能性が広げられるかを期待します。新設学部の場合、授業科目など教育課程に関する情報が発信されるのが遅くなることが多いのですが、届出や申請手続きの関係もあるので致し方ないところがあるとは言え、ここは詳しい情報公表をお願いしたいところです。

 文系理系ともに1位、2位の項目は同じですが、3位からやや異なってきます。理系生は「教育方針・カリキュラムが魅力的であること」ですが、文系生は「校風や雰囲気が良いこと」となり、スペックの話から突然、マインドの話になります。このあたりが受験生の大学選択について今ひとつ捉え切れない部分と言えるのかも知れません。

 かなり前のことですが、大学生に受験期についての意識調査をした時、志望校を考え始めた時期や受験直前期などの時期によって、重視する大学選択基準が変化していることが分かりました。進学センサスの調査結果には、大学選択基準の変化は集計されておりませんが、進路選択のための様々な行動をどの時期に取ったのか、それぞれの進路選択行動を取った時に最も影響を受けたメディア(人やイベントなども含まれます)などの詳細データがありますので、マーケティングデータとして参考になると思います。

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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