北海道大学大学院保健科学研究院のコリー紀代助教らの研究グループが、人工呼吸器装着中の気管内吸引をトレーニングできる人工呼吸器ケアXRシミュレータの開発に世界で初めて成功した。XR(クロスリアリティ)とはVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の総称。

 北海道大学によると、研究グループは広島国際大学保健医療学部の二宮伸治教授、香川大学創造工学部の小水内俊介准教授の協力を得て、気管内吸引カテーテル操作で血液中の酸素濃度低下や表情の変化などの生体反応の変化を示すシミュレータを開発、これを人工呼吸器トレーニングアプリと統合して人工呼吸器装着中の気管内吸引トレーニング機器を開発した。

 気管内吸引とは気道内の喀痰を除去するケアで、人工呼吸器装着の際に気管内に留置したカニューレから吸引カテーテルと呼ばれる細い管を挿入して行う。気管壁には迷走神経や腕頭動脈が並走しており、カテーテルの操作によっては致死的リスクを伴う。

 この機器を使えば、身体への侵襲度が高く病棟実習では体験できないトレーニングが可能となるだけでなく、従来のシミュレータで提示できないリアルタイムの生体反応が示され、患者に寄り添ったケアを学べる。開発には名古屋市立大学大学院の中村美鈴教授、国際医療福祉大学大学院の五十嵐真里講師、九州工業大学大学院の井上創造研究室が協力した。

 文部科学省の調査によると、国内の人工呼吸器装着児は2005年の推計で264人だったが、2020年には約19倍に増えている。365日24時間体制のケアが必要になるが、人工呼吸器という急性期看護の知識と障がい児ケアのスキルを持つ看護師の不足で十分なサービスを提供できていないことが明らかになっていた。しかし看護系大学の看護基礎教育期におけるシミュレーション教育機会が乏しく卒業後のOJT中心となっていることから、今回の国産の安価なシミュレータ開発の開発に至った。

 研究グループは、このシミュレータの活用を通じて医療的ケア児と家族に対する在宅ケアサービスが充実することで、意図しない介護離職やヤングケアラーが減り、当事者・家族の声(社会的ニード)を反映した実習前後 OSCE・看護教育プログラムの検討が可能となると期待している。また、国際共同研究ネットワークの構築を進め、国内のみならず看護学教育の国際標準に準じたカリキュラム開発への発展を目指すとしている。

論文情報:【Journal of Nursing Care & Reports】Learning Effects of Mechanical Ventilator/Tracheal Suctioning XR Simulators and Extracting Decision Making Criteria to Introduce a Novel Simulator(PDF)

大学ジャーナルオンライン編集部

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