同志社大学の北岸宏亮教授らの研究グループは佐賀大学と共同で、硫化水素を生体内で捕捉し無毒化する化合物の開発に成功した。投与後はすぐ尿として排泄されるため安全性が高く救急救命用途に適しているという。

 硫化水素は火山や温泉地などで自然発生し、100 ppm以上の濃度で吸入すると死に至る可能性がある。下水処理作業、農業施設、学校での理科実験などでも発生することがあり、国内では硫化水素中毒による死者が例年一定数発生している。現在、硫化水素中毒に対し即効性のある治療薬は医療実装されておらず、酸素換気でゆっくりと寛解させるしか方法がない。

 研究グループは2023年2月に、一酸化炭素(CO)およびシアン中毒の同時解毒剤として、hemoCD-Twinsの開発に成功している。今回はこのhemoCD-Twinsの構成成分であるhemoCD-PおよびhemoCD-Iのそれぞれについて、硫化水素に対する結合性能を調査した。

 その結果、hemoCD-Iが硫化水素と反応して硫化水素イオンを結合したhemoCD-Iが空気中の酸素と反応し、有毒な硫化水素から無毒な硫酸イオンあるいは亜硫酸イオンへと効率よく変換することを見出した。致死量以上の硫化水素ナトリウムを投与したマウスに、中毒症状が出た後すぐにhemoCD-Iを投与したところ、約8割のマウスが死亡を免れた。さらに投与したhemoCD-Iは分解されずそのまま尿中へと排泄された。

 hemoCD-Iは生体内の硫化水素の結合部位(ヘモグロビンなど)よりも約10倍程度優れた結合性能を示し、中毒の解毒剤として応用できることが分かった。hemoCD-TwinsはCO、シアン、硫化水素いずれかの中毒患者なら投与による治療効果があり、救急救命の現場や救急搬送中に迅速にhemoCD-Twinsを投与できるようになれば、多くのガス中毒患者の命を救えることが期待されるとしている。

論文情報:【Scientific Reports】Detoxification of hydrogen sulfide by synthetic heme model compounds

大学ジャーナルオンライン編集部

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