秋葉原から、つくばエクスプレスで25分。近年急速に発展している千葉県「流山おおたかの森」駅からスクールバスで約6分の場所にある江戸川大学。開放的な中庭を囲む緑溢れるキャンパスには、およそ2,400名の学生が学んでいる。2学部6学科のユニークな学部学科構成に、少人数制で独自の教育を展開する。
「人間陶冶」の理念を基本に、常に教育の質の向上をめざし、大小さまざまな改革を継続して行ってきた。
「学生と教職員の距離が近いことが開学以来の誇りです」と話すのは、2024年4月、今年度新たに学長に就任した宮崎孝治学長。
「私は、ずっと江戸川大学に勤めてきましたので、学長になったからといってあまり何か変わったという感じはありません。しいていえば、部屋が変わったことくらいでしょうか」
と、にこやかに笑う。江戸川大学の教育、そして、これからについて話を伺った。

 

江戸川大学の宮崎孝治学長

学生の意欲を引き出し、後押しする様々な環境をつくる

「江戸川大学はいわゆる文系の大学ですが、1990年の開学当初から情報化を推進し、全学生へのパソコン貸与とキャンパス内のネット環境整備に力を入れてきました。そのおかげで、コロナ禍では混乱も少なくオンライン授業に移行することができ、現在はオンライン授業の良さは残しつつ対面授業での日常を取り戻しています。
 海外大学とも提携して、さまざまな海外研修制度を展開し国際化も進めています。世界各地から留学生を受け入れる他、特に「グローバル・スタディ・プログラム(GSP)」では、希望する学生は、一定の応募条件をクリアすると江戸川大学の学費のみで3年次後期に約8ヶ月の留学が可能です。
 学生の資格取得に積極的に関与し、30以上の資格取得を支援しています。この支援を活かして就職のために資格をとにかく取っていくんだという学生もいますね。例えば、ITパスポートや世界遺産検定はじめ、各種資格試験について合格すれば受験料相当額が支給されるなど、勉強したい学生のやる気を後押しする環境を整えています」

 その他にも江戸川大学では、学生食堂「Dining & Cafe Edogawa」での和洋3種のメニューから選べる100円朝食があり、学生にも好評だ。

「国も推進していますが、朝ごはんをきちんと食べるのと食べないのとでは、その後の学習効果が違ってきますので、健康や生活リズムを整えるきっかけに、ぜひ利用して欲しいですね」

 同様に、入学時には同学の睡眠研究所の研究成果を活かした、大学生活をよりよく過ごすための睡眠のアドバイスなども行っている。

 このように、江戸川大学が学修面、生活面にわたって、学生の意欲を引き出し、後押しする様々な環境を用意するのには理由がある。

「本学では、学生募集が計画通りに進まない時期がありました。それをきっかけに、私たちに足りないことは何か、また、できることは何かを考えました。そして『学生のことをもっと知り、もっと密に関わっていこう。できるだけ多方面から、学生をサポートしていこう』と教職員みんなで取り組んで現在に至ります」

 取り組みの成果もあって、現在の江戸川大学の学生数は堅調に推移している。

『大学全体として、学生に関わる』という姿勢

「3、4年次になれば、10人前後の少人数ゼミで担当教員のもと、学びを進めることができますが、例えば2年次まで必修となっている基礎・教養教育センターが運営している『アカデミック・スキル演習』という科目でも、ルーブリック評価※を取り入れて、学生自身も自分の達成度を把握し、教員も学生一人ひとりの理解に合わせた対応ができるようにしています。さらに、日頃から学生が何に悩んでいるのかなど、状況の変化についてもキャッチアップできるよう、事務の職員も学生とのコミュニケーションを図っています。『大学全体として、学生に関わる』というこの姿勢は、教育を進めて行く上で、本学の大きな力です。
 もしかしたら、独立心の強い学生にとってはあまりうれしい話ではないかもしれませんが、大学との接点がゼミの担当教員だけに限られてしまうと、学生生活がその教員との相性に左右されてしまうので、学修面や生活面、日常の中で学生が相談できるいろいろなパイプを構築するようにしています。
 また、本学は他学部履修の障壁が少ないので、学生は興味関心に応じて他学部の科目を履修することができ、学部・学科に捉われずに可能性を広げていけるのではないかと思います。例えば、マス・コミュニケーション学科の学生が、『ITに強くなりたいから情報文化学科のシステム系の授業を取り入れていく』というような自由も利きます。振り返って、自分の大学時代を考えると、他の学科の科目を受けるという発想自体がありませんでした。自由な科目履修によって、『これ取ってみたい』『これ面白そう』ということでの履修が許容されると、ちょっとしたきっかけで、学修の幅が広がっていき、それが将来的に本人の力になっていくでしょう。
 また、せっかく取れるならとついでに履修した教職課程を活かし、そのまま教職についた学生もいます。保護者の方は『うちの子が先生になるなんて!』と驚いていらっしゃいました。本当に、何がきっかけになるかはわからないものです」

※ルーブリック評価:さまざまな角度から学生の学習到達状況を評価できるように作成された評価基準表「ルーブリック」を用いて行うもの。

学生たちに伝えたい『経験を通して学ぶ』大切さ

「今の学生は、とても真面目です。ただ少々慎重で、『何をしていいかわからない』『関心はあるけど何だか難しそうだ』と、やる気はあっても実際には行動に移せていない、頭で考えているだけという学生が多い印象です。ですから、机の上だけの学びではなく、学生自身が自分の目で見て、自分で経験して、その経験が『このために必要だったんだね』と、理解できるようになって欲しい。だから、教員は学生を学外へ連れ出します。実際を見て、そこから学んでいく姿勢、プロセスを大切にして欲しいからです。そして、私たちも『すぐに結果を求めない』『失敗は許容する』という姿勢で学生に接するよう心がけています。
 人間、やはり失敗から学ぶことのほうが多いように思います。経験していく過程で、だんだんと成長していくものなのではないでしょうか。そうして学生生活を送っていくうちに、本人も知らない間に4年経ってみると『こんなことができた』『こんなことをやってきた』そういう結果につながります。ですから、このような環境に興味が湧いたら、ぜひ江戸川大学を覗いてみて欲しいですね。ここには『じゃあ一緒にやっていこうよ』という教員がたくさんいますので」

フィールドワーク等を通じて、さまざまなことを自分自身で見て・経験して欲しい

今後の取り組みについて

「新たなプロジェクトとして、先日、B棟の図書館に新しい価値を生み出す『21世紀メディアパーソン育成プログラム』の活動拠点として、本学として2か所目のラーニング・コモンズ『B.コモンズ』が完成しました。『21世紀メディアパーソン育成プログラム』は、マス・コミュニケーション学科と情報文化学科から選抜された学生が、それぞれの学科で身につけた知識・技能を出し合うこと、両学科科目の相互履修によって、両学科での学修成果を高度に体現し、様々な場面において実践的に活用できる応用力を磨いていくという試みです。
 学生たちが、学ぶ場から創っていくプロジェクトなので、図書の選択も学生自らが行いました。私たちも『あっ、こういう図書を入れるんだ』『なるほど、机の配置はこうするんだ』など、学生の感性に刺激を受けています。
 私自身は前学長から引き継いだプロジェクトの完遂をめざしつつ、大学としての大きな方針を変えるつもりはありません。もちろん、改善・改革していくべき点はまだまだありますので、一つひとつ育てていくつもりで、よいところは維持しながら、改善・改革すべき点は任期中にとにかく手をつけていきます。
 私が新規に提案する12項目の取り組みも、教職員の協力なくしては成り立たないのですが、みなさん、真摯に学生や業務に向き合ってくれ感謝するばかりです。学生はもちろんですが、私たち自身もともに成長して、よい大学にしていきたいと考えています。
 私たち江戸川大学の学びに興味を持ってくれて、小さな意欲や心の中に引っかかりを携えた学生が来てくれて、ここで意欲的に学んでくれたら言うことなし、そんな風に感じています」

学生たちが自らつくり上げた学びの場「B.コモンズ」

江戸川大学 学長

宮崎孝治

1987年に東京学芸大学 教育学部 特殊教育学科を卒業。同大学院 教育学研究科で障害児教育学専攻修士課程を修了したのち、1991年に筑波大学大学院 教育学研究科 教育基礎学専攻博士課程を退学。江戸川女子短期大学を経て2006年江戸川大学社会学部教授に。また入学センター長や教務部長などの役職も歴任。2019年副学長、2024年4月学長に就任。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。