近畿大学、扶桑薬品工業株式会社などの研究グループは、体外受精に用いるガラス器具の一部が、受精卵の発生を阻害することを発見した。研究には他に奈良県立医科大学、慶應義塾大学、浅田レディースクリニック、東京農工大学、京都大学が参加している。

 日本人の生殖補助医療や畜産、基礎研究分野の体外受精では出生率が現在約30%で、その向上には胚の培養環境の改善が必要とされる。研究グループは、実験過程での原因不明の胚発生率低下事例を検討し、培養に用いるガラスボトムディッシュが原因と突き止めていた。そこで、実験器具、特にガラス器具に胚発生を阻害する毒性が潜在するという仮説を立て研究を開始した。

 研究グループは一部のガラス器具から胚発生を阻害する毒性成分の漏出を確認、成分分析により亜鉛と判明した。亜鉛はマウス胚での発生遅延、染色体分配異常、細胞質分裂異常、胚性遺伝子の活性化異常などを引き起こし胚盤胞の形成を著しく減少させた。

 着床後、亜鉛添加環境で培養した胚の出生率は、無添加環境で培養した胚と同程度だったが、出生体重は平均18%増加した。さらに、亜鉛はウシやヒト胚の発生にも影響を与え、動物種による影響の差異が見られた。

 亜鉛による胚毒性効果の軽減方法を検討した結果、培養液にキレート剤のEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を適切な時期・濃度で添加するか、事前にガラス器具を十分洗浄することで、ガラスに触れた培養液でも胚の発生率や出生率が低下しないことを見出した。

 今回の研究により、原因がよくわからない体外受精の成績低下はガラス器具の毒性に由来する可能性が示唆され、今後安全で効果的な体外受精法の開発が期待されるとしている。

論文情報:【Biology of Reproduction】Zinc eluted from glassware is a risk factor for embryo development in human and animal assisted reproduction

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。