名古屋大学大学院、慶應義塾大学の研究グループは、東京大学などとの共同研究により、マウス線維芽細胞から肺細胞(2型肺胞上皮様細胞)を約7日の短期間で作製。世界初の成果となった。
特発性間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺炎などの難治性肺疾患では、急性・慢性的に2型肺胞上皮(AT2)細胞(肺の修復に関与)が障害され、その修復異常が病態形成に深く関与しているとされる。これまで、損傷した肺の根本的な再生・修復は極めて困難だった。近年、幹細胞技術の応用、特にiPS細胞技術が注目されているが、工程の複雑性や腫瘍形成のリスク、高コストなどの課題があった。
そこで研究グループは、迅速かつ簡便で、腫瘍形成や拒絶反応のリスクを抑える新たな細胞作製技術として、幹細胞を介さずに、線維芽細胞などの体細胞から目的の細胞へと直接的に運命転換させる「直接リプログラミング技術」に注目した。
研究では、4つの転写因子(Nkx2-1、Foxa1、Foxa2、Gata6)による直接リプログラミングで、7〜10日でマウス細胞の肺上皮様細胞への誘導に成功した。「iPUL細胞」と命名したこの誘導細胞は、電子顕微鏡でラメラ体(肺の拡張に必要)様構造を示し、網羅的遺伝子解析でも正常2型肺胞上皮(AT2)細胞と高い類似性を示した。さらに、iPUL細胞を肺線維症モデルマウスに気管内投与したところ、42日後には肺胞領域への生着を確認、一部は1型肺胞上皮(AT1)様細胞への分化を認めた(AT1細胞はガス交換を担う)。
今回の研究は肺の再生医療に新たな道を拓く成果であり、将来的には間質性肺炎、COPD、重症肺炎などの難治性肺疾患に対する新たな根治的治療法の開発につながることが期待されるとしている。