「かゆみを感じて掻く」という行動は、通常は皮膚の異物(ダニなど)を引掻くことで除去する自己防衛反応と考えられている。
しかし、皮膚炎などによる慢性的なかゆみの場合、過剰な引掻き行動が起こり皮膚炎が悪化、さらにかゆみが増すという悪循環に陥ることがある。この悪循環は、かゆみを慢性化させる大きな原因だが、かゆみが強まり過剰に引掻いてしまうメカニズムは明らかになっていない。
今回、九州大学の研究グループは、アストロサイトと呼ばれるグリア細胞(神経系を構成する非神経細胞)から放出されるタンパク質「リポカリン2」が、かゆみ信号を脳へ伝える脊髄神経の活動を強めることで、ちょっとした弱いかゆみ信号でもかゆみが起こりやすくなってしまうメカニズムを世界で初めて明らかにした。
炎症を起こした皮膚からのかゆみ信号は、脊髄の中にある神経に伝わり、この神経はガストリン放出ペプチド(GRP)という物質を出す。GRPは次の神経にあるGRP受容体(GRPR)に結合し、この神経(GRPR神経)を興奮させ、脳にかゆみ信号が伝わる。
しかし、慢性的にかゆい状態である接触性皮膚炎モデルマウスでは、脊髄後角でアストロサイトが活性化し、慢性的にリポカリン2が作り出されており、リポカリン2がGRPR神経に作用してGRPの働きを強めていることがわかったという。その結果、弱いかゆみ信号でもGRPR神経が興奮してしまうので、慢性的なかゆみとなると考えられる。
実際に、アストロサイトでリポカリン2を作れなくしたマウスでは、かゆみ信号の強まりと過剰な引掻き行動、そして皮膚炎がすべて弱くなった。
本成果は、慢性的なかゆみのメカニズム解明に向けた大きな一歩となり、かゆみを鎮める治療薬の開発への応用に期待がかかる。