札幌医科大学と北海道大学のグループは、正常マウスにおいて、運動をすると、骨格筋の間葉系前駆細胞(Fibro-adipogenic progenitor; FAP)が細胞老化を起こすために、筋の再生が促されることを発見した。一方、骨格筋に慢性炎症を起こしたマウスの場合は、FAPの老化が十分に起こらず、エクササイズによってむしろ骨格筋の線維化病態が悪化することを明らかにした。
持続する炎症や線維化により筋機能が低下する慢性炎症性筋疾患では、筋機能を回復させるために運動が有効な治療法であることがわかっている。しかし、症例によっては炎症や線維化が悪化することもあるといい、なぜ、運動が筋再生を促す場合と、炎症や線維化を助長する場合があるのか、その二面性の謎はわかっていなかった。
本研究では、骨格筋の再生と変性の両方に深く関わるFAPに着目し、治る炎症である急性筋炎モデルマウスと、慢性筋炎モデルマウスを用いて解析した。その結果、急性筋炎のマウスでは、FAPが強い細胞老化因子の発現を呈する一方、慢性筋炎のマウスでは、細胞老化因子の発現が弱く、細胞死に対する抵抗性、免疫回避機構などを示してFAPが蓄積していくことがわかった。
通常、ダメージを受けた細胞は老化し、Senescence-Associated Secretory Phenotype(SASP)という現象を起こすことで、免疫細胞の動員を増加させる。これは、老化した細胞が免疫細胞によってクリアランスされ、正常な組織リモデリングがなされるために必要なシステムだ。しかし今回、慢性筋炎では、この細胞老化システムが正常に働かないために、筋再生の誘導が阻害され、慢性的な炎症と線維化をきたすことがわかった。
そこで、FAPの細胞老化を誘導するためAMP-activated protein kinase(AMPK)を活性化する薬物治療と運動の併用治療を慢性筋炎モデルマウスに対して行ったところ、FAPの細胞老化が誘導され、筋の再生が促されたという。
本成果は、筋疾患に対する効果的な治療法の発展につながることが期待される。