一部の大学ではすでに出題教科・科目の検討が進んでいる
今後の予定としては、今年の夏頃に文部科学省から「大学入学者選抜実施要項に係る予定」と「大学入学共通テスト実施大綱に係る予定」が各大学に通知されることになっています。
これを受けて各大学は入試科目や出題範囲を決めて、2022年9月までに公表することになると見込まれます。多くの大学ではまだ情報収集の段階だと思いますが、一部の大学ではすでに検討が進んでおり、筆者もいくつかの大学からの問い合わせに対応したり、教授会で教科・科目の概要について説明する機会をいただいたりしています。
入試科目を検討する際、共通テストについては、大学は自ら入試問題を作問する必要がないため、比較的スムーズに進められると思われます。ただ、「情報」を課すかどうかは議論のポイントになるでしょう。情報教育を推進する立場からは、文系学部は数学に代えて「情報」を課すべきだという意見もあります。そうなると高校教育における「情報」の授業もこれまで以上に活発に行われることになるでしょう。
しかし、公表されたサンプル問題を見る限りでは、文系数学の代替となるのは難しいのではないかとも考えられます。この辺りは、各大学が置かれた社会的な立場や入学後に学ぶ専門分野などによって異なると思います。また、数学の代わりに「情報」を課す大学が出てくるかどうかの鍵となるのは共通テストの時間割です。共通テストの時間割で「情報」がどこに置かれるか、数学とは別枠で設定されるか、数学と同じコマに置かれるか、ここは注視したいところです。
「情報」の作問は可能か、文系数学の出題範囲は高卒生に配慮が必要
各大学が個別に実施する個別試験の教科・科目は、各大学の作問能力による制約から、「公共」「地理総合」などを出題しない大学が多くなることが予想されます。「情報」もほぼ同じ状況にあると言えるのではないでしょうか。なお、ここで言う作問能力とは、単に問題を作るだけではなく、出題内容への質問に的確に答えることができ、さらに受験生の能力を的確に選別できる問題の作成という意味までも含んでいます。
大学によっては「公共」や「地理総合」、「歴史総合」は必修科目なので、入試で出題する必要があるのではないかと考える場合があるかも知れません。しかし、高校の必修科目であることと生徒が受験科目として選択することは全く別物です。現在でも地歴の受験科目は日本史を選ぶ生徒が大半ですが、必修科目となっているのは世界史です。
その他では、個別試験の文系数学に「数学C」を課すかどうかも課題となると思われます。現行課程の文系数学は科目としては「数学ⅠA・数学ⅡB」となっており、数学Bは(数列・ベクトル)が出題範囲です。そのため、現行課程と同じ傾向の出題をする場合は、「数学C」を課して(ベクトル)を出題範囲とする必要があります。これは高卒生への経過措置とも関係しています。高卒生に配慮しつつ、現役生にも対応できる仕組みとしては選択問題を用意することですが、問題難度に差が出た場合、その調整方法も前もって決めておく必要があります。
現実的には経過措置として新旧両課程に配慮し、文系数学は科目を「数学ⅠA・数学ⅡB・数学C」としてカッコ書きで(数学Bは数列、数学Cはベクトルを出題範囲とする)ということになるのでしょう。人数が減ったとは言え、まだ数万人の単位で優秀な高卒生は存在しています。配慮は必須です。
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