文部科学省の「大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)」、令和3年度の全国シンポジウムが、2022年2月12日(土)〜13日(日)に開催されました。テーマは「人材育成から人材輩出へ」。サブテーマに「ローカルESG、その地域らしい地方創生に向け、地方大学が果たすべき役割とは?」を掲げ、昨年に続いてオンライン形式での開催でした。人材育成の次の次元である「人材輩出」に大学がどのような関わりを持つか、2日間にわたって基調講演とシンポジウムを通じ考察と議論が繰り広げられました。その第一部のサマリーをお届けします。

 


 

これからの地域戦略は「ESG」がキーワード

 今回のシンポジウムはもともと富山で開催される予定だったので、配信ではまず富山大学の齋藤滋学長が開会のあいさつを行いました。地方での新たな価値創出は、ESGに基づいた人材育成・人材輩出が鍵を握るとし、それに大学としてどう応えるかの議論を期待したいと説明。岸田内閣が掲げたデジタル田園都市構想の実現に、この事業が貢献できるのではと結びました。

 

 

 次に、来賓として新田八朗富山県知事が登場。経済的・精神的・社会的に満たされたウェルビーイングの先進地域を目指すためには、知の拠点である大学が中心となり、産学官金の協働で地方創生を担う人材輩出に期待したいと述べました。大学は一生付き合っていく存在に変わりつつあることを強調していたのが印象的です。

 また、文科省総合教育政策局の根本幸枝(こうえ)課長もあいさつに登場し、COC+Rの現況とこの事業を効果的に進めるためのポイントについての報告がありました。

 

 

 

ローカルESGの可能性とは?──基調講演

 あいさつに続き、(株) ニューラル代表取締役CEOの夫馬賢治氏による「ローカルESG、これまでの延長線ではない産官学金の連携による、その地域らしい地方創生に向け、地方大学が果たすべき役割とは?」をテーマとした基調講演が行われました。

 「ESG」とは「Environmental Social Governance」の頭文字を取ったもので、サステナビリティの代名詞として使われ始めている考え方です。夫馬氏はグローバルリスクの要素として、異常気象、生活多様性の喪失、環境リスクがワースト3であると紹介。特に気候変動が経済に与える悪影響は甚大になる予測を、各種データをひもときながら解説しました。破壊的な金融危機への懸念も大きく、政府機関に任せきるのではなく金融機関が積極的にコミットしていく重要性を強調。既に欧米各国ではESGへのシフトが進んでいることを紹介しました。

 また、経済は社会と環境を基盤にしていると論じ、ESG投資はリターンが増えるという研究論文を引いて、はっきりとした流れの変化が起きていると指摘しました。今までの短期展望から長期を見通して投資を行うようになっており、ESGの観点から投資に値するか否かの判断を下すことが普通であることも報告しました。

 

 

ESGに遅れを取る日本、これから何をすべきか

 続いて夫馬氏は日本におけるESG関連の現状を解説。まず日本における労働力の減少、人材ランキングや日本市場の存在感が著しく低下していることを指摘しました。世界でも相当な下位に低迷するようになってしまい、その課題として教育支出、国際経験、大学教育の競争力の低さを挙げます。

つまり、教育環境に大きな課題を抱えているわけです。これらの解決には、ESGの観点に立った教育、特に大学が大きな役割を果たすと論じました。

 環境省は、地域の金融機関がESG投資によって新たな経済を導くプランを描いています。自治体、地域企業、地域金融機関の連携によって可能となるのですが、そのハブとなるのが大学という位置付けです。

 困難なプロジェクトを大学がマネージメントすること。大学の先生たちが持っている地域企業とのネットワーク、話のしやすさなどが大きな価値を持ってきます。「ゼロカーボン」の課題を取っても、大学がゼロカーボンキャンパスとなることで地域をゼロカーボンへ導くことができると言います。

 そして遅れは取っているものの、日本の地域企業がESGに取り組んでいる例を挙げました。滋賀銀行、農林中央金庫、レノファ山口(J3のサッカークラブ)などがどのように地域と連携しているかを紹介。この動きが広がっていくことへ期待したいと続けます。

 最後のQ&Aコーナーでは、参加者からリモートで寄せられた質問に対して、信州大学の林靖人教授も加わり、答えていきます。そして、ESG意識が進んでいること、企業が変化しつつあることを踏まえ、大学がどう考えどう連携するかに大きな興味を持っていると結びました。

 

 

地方大学が輩出すべき人材と取組──4つのワークショップ開催

 次に、4つのワークショップが同時進行で開催されました。テーマは「これからの地方大学と地域の連携の在り方、そして地方大学が輩出すべき人材とは?」。「カーボンニュートラル 大学等コアリションの取組を題材に」が副題として設定されています。それぞれの内容はグラフィックレコーディングにまとめられ、共有されました。

 ワークショップ1では、「ゼロカーボン・キャンパス(地域で大学が先駆ける)」について、信州大学と千葉商科大学の取組を紹介。ワークショップ2では「地域ゼロカーボン(地域社会のトランジションに大学が関わる)」をテーマに岡山県立大学と信州大学が行っていることの発表。ワークショップ3は「イノベーション(テクノロジーは大学が生みだす)」として地域ごとの魅力アップとイノベーションに必要なのは、一生大学と付き合っていくこと、と結論。そしてワークショップ4では「人材育成(地域ならではの特色をもった人材を育成する)」について地域課題に対する大学の応え方を、実例を挙げながら解説しました。

 最後に富山大学の武山良三理事が講評を述べ、これからの社会に求められる質の高い人材を育成・輩出する重要性と、大学ならではの知見と調査研究力をそこに活かしていきたいとの思いを語りました。

 

 

 閉会のあいさつには信州大学の中村宗一郎学長が立ち、大学が中心となって多様な人や知を集約・集結すれば、そのシナジー効果でこれまでなかったイノベーションを創出できる。そして運営費のための大学によるソーシャルボンド実現も考えていかなければならないこと、目の前の課題に総力を集めて立ち向かいたいと第一部を締めくくりました。

 

 

【参照】
大学による地方創生人材教育プログラム構築事業(COC+R)ポータルサイト

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