近年、国立大学に新設される学部で文理融合を標榜する学部が増えています。2023年度も金沢大学(融合学域スマート創生科学類)、静岡大学(グローバル共創科学部)などの新設が予定されています。これらに加えて、一橋大学(ソーシャル・データサイエンス学部)も文理融合と言って良いでしょう。ところで、今年の6月から中央教育審議会の大学分科会に新しい部会(大学振興部会)が加わりましたが、そこでの論点は文理横断・文理融合教育です。今や国家政策となりつつある文理融合系学部です。

 

 

大学振興部会の第1回の議題は文理横断・文理融合教育

 文部科学省の教育政策を審議する中央教育審議会には、いくつかの分科会が設けられています。その中で主に大学など高等教育政策は、大学分科会が担っています。その大学分科会のもとには様々な部会やワーキンググループが設けられていますが、今年の6月から新たに大学振興部会が加わりました。

 大学振興という部会の名称からは、私学助成や地方創成、国立大学法人の運営費交付金などを扱うかのような印象を受けますが、6月17日に行われた第1回の議題は、文理横断・文理融合教育です。部会の検討事項を見ると、文理横断・文理融合教育のほか、ダブルメジャー等による学修の幅を広げる教育の推進、初中等教育における学びの変化や文理分断の改善に対応した大学の在り方など、小中学校・高校での教育に関わることも含まれています。

 このほか、学習者本位の教育の実現、卒業生の資質・能力を保証する出口の質保証、大学の強みと特色を生かした連携・統合・再編、高等教育の規模の在り方なども検討事項としてあげられています。そのため、今後は学習者本位の教育(教学マネジメント、質保証など)、大学連携なども議論されると見られますが、今のところは文理横断・融合の促進が話し合われているようです。

・大学振興部会HP
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/051/index.html

 

文理融合=文系学生に数学を学ばせること?

 部会の資料では、文理横断・融合について、いくつかの論点が示されています。「なぜ文理横断・文理融合教育等を推進する必要があるのか」、「我が国の大学において、文理横断・文理融合教育等が十分に進捗、発展しているとは言えない状況であるとすれば、その背景、要因は何か」、「文理横断・文理融合教育等を行う大学・学部等を積極的に評価、支援していくために、どのような取り組みが考えられるか」などが主な論点ですが、次のように高大接続に関わる論点も示されています。

 「文理分断からの脱却、文理横断・文理融合教育等の推進の観点から、初中等教育と高等教育との接続について、どのような取り組みが求められるか」として、入試科目の見直しや入学者選抜の工夫・改善についても言及されています。ただ、文理横断・融合と言っても、資料を見ている限りでは、理系学生の人社系の学びを充実させるというよりは、文系学生にもっと数学を学ばせたいように見えます。このあたりはデジタル人材の育成という目標が背景にあるのでしょう。

 そのため、現実的には難しいと思いますが、いずれはいわゆる私大文系入試(英国地公)を規制して、数学を課すことを標準化したいのだろうと推測できます。

 こうした文系・理系の話になると、ほぼ必ず高校における文理分けが議論の対象となります。そこでは、高校での文理分けを廃止した方が良いという意見に加えて、文理分けを行っていない高校の事例が紹介されることがあります。

 確かに文理分けを行っていない高校は稀にありますが、ただ、授業科目の選択は行われています。クラスを文理に分けてなくても、生徒がそれぞれ授業科目を選択することで実質的に文理に分かれます。そのため、結局は文理分けをしているのと変わらないのですが、なぜか文理分けに反対の立場の方には評判が良いようです。

 ところで、文理融合人材とは言うものの、実際のところは数学がそこそこできる文系生か人社系の科目が少し得意な理系生のことを指していると言えます。本当に希ですが、どの科目も高いレベルで万遍なくできて、興味関心も広いことで文理選択に悩む生徒に出会うことがあります。

 恐らくそういう人材が本当の文理融合人材なのでしょうが、本当に希ですし、誰かに育成されてそうなった訳ではなく、もともとできる生徒だったと記憶しています。

 

データサイエンス系学部の志望者の大半は理系生

 河合塾の大学入試情報サイトKei-Netでは、2023年度に新増設予定の学部学科が紹介されています。文理融合系の学部は、金沢大学(融合学域スマート創生科学類)、静岡大学(グローバル共創科学部)、一橋大学(ソーシャル・データサイエンス学部)、名古屋市立大学(データサイエンス学部)などが新設予定です。

 データサイエンス系学部の日本初は2017年の滋賀大学データサイエンス学部ですが、私立大学を含めると設置学部はかなり増えてきました。2023年度でも私立大学で多くのデータサイエンス系学部学科が設置される予定です。

 一般的にデータサイエンス系の学部学科は文理融合系として扱われています。ただ、志望者の大半、特に国公立大学の場合は7~8割が理系の生徒です。文系科目で受験できる入試方式が用意されていたとしても、大学入学後は必ず数学が必要となることを受験生は知っています。それぐらい文系の生徒にとって数学のハードルは高いのだと言うことです。

 このデータサイエンス系学部を含む、主な国公立大学の文理融合系学部を<表>にまとめました。ここには、京都大学(総合人間学部)などのように入試で文系型科目・理系型科目の両方式を実施している学部も含めています。

 

 

 また、横浜国立大学(都市科学部)のように建築学科、環境リスク共生学科など複数の学科のうちの1学科が文理融合系学科のケースも学部として文理融合系として含めました。

 ところで、各受験情報サイトでの入試結果集計では、文理融合系という学部系統分類がないため、学部系統としての受験生の人気(志願者数、倍率など)を図る指標による集計がありません。

 2022年度入試では、徳島大学や愛媛大学で前年の2倍以上の志願者数を集めた募集区分もありますが、筆者が大まかに計算したところでは、表中の大学・学部の2022年度入試の志願者数は全体でやや減少、倍率も平均で3倍には届かないため、分野として人気があるとは言えないのですが、前述のように政策としてのバックアップもありそうですので、今後も増えていくことは確実だと言えるでしょう。

・河合塾の大学入試情報サイト「2023年度 新設大学・増設学部・学科一覧」
https://www.keinet.ne.jp/exam/future/

 

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/株式会社KEIアドバンス コンサルティング部 部員
/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンスは河合塾グループのため、膨大な入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査が可能なこともあり、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援など設置者を問わず多様な依頼が日々多く寄せられる。
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